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天啓の反動

「それは"天啓の反動"という。固有魔法を限界を超えて使うと、必ず反動が返ってくる。どんな反動かは、なってみないとわからない」

「先に知りたかった……」

「コーチに説明されなかったか? 説明不足だなそりゃ」


 私は不安感からもぞもぞと布団に潜り込む。さっきまでポータルの中にいたせいか、何かに包まれているという感覚がこの上なく嬉しい。


「眠い?」

「眠くない、落ち着くだけ、続けて」

「……そうか」


 少し気まずそうな声色だ。自分の寝床を荒らされるのはやはり嫌なのだろうか。申し訳なくなって布団を剥がして座ろうとしたが、気にするな寝てろとまた寝かされた。何も見えない聞こえない状態で、それに慣れてるわけでもないのに危なっかしい、やめろ、とのことだった。それもそうだ。


「どんな反動かはわからないが、天啓と全く無関係なことはない。つまり、反動を知られると、天啓や固有魔法の内容を類推される可能性がある。固有魔法も反動も、同じ天啓の子だからだ」

「へ〜」

「……あのときは来ていた職員が全員非適性者だから適当に誤魔化せたが、悪意のある第三者に反動を見られるのは危険だ。固有魔法を知られるのはいい、反動は確定しない。反動を知られるのは、弱みを握られた上に固有魔法まで類推されるということだ。危険すぎる」


 自分はかなり迂闊な行動をしていたということだ。頬を叩かれたことに文句を言おうと思っていたが、仕方ないかと納得する。


「お前、どれだけ固有魔法を使った? おそらくだが……反動や状況から見て、サルーニャに意識を集中させて、何かを伝えるか、あるいは読み取るか……テレパシーに近い力なんじゃないか? サルーニャの心に近づくために、あの公園にいる間中、1時間だか2時間だかずーっとその力を使っていた……そうじゃないか?」

「……どうだろうね?」

「よし、えらい。もし誰かに言い当てられても、動揺しないようにしろよ」


 褒められて気分がいい。固有魔法を使わせてと頼んだときの会話から、私はちゃんと学んだのだ。


「……この反動の話を、姉さんにはしない方がいい。俺からは、単に体調を崩したらしいとしか伝えていない」

「どうして?」

「念には念を。夜な夜なお前の観察記録がとられてるのは覚えてるだろ」


 正直忘れかけていた。そういえばそんな話があった。


「言っておくが、あの家に監視カメラとか盗聴器はほぼ確実にないと見てる。あればもっと詳細な記録が取れるだろうというのがひとつと……姉さんは冒険者時代、ストーカーの豚共に付け狙われた結果、勘がやたら鋭くなった。姉さん自身が協力してるんでない限り、その手のものはいくら仕掛けても確実に破壊される……というのがひとつ」

「便利すぎる」

「だから話しても絶対ダメというほどではないが……万が一の話だ。前に俺があの家で色々と話したのも……姉さんはグルなわけがないというナイーブさがあったなと、反省してる」


 きっとピグトニャは今、姉さんの様子を見ていてほしい……そう私にお願いしてきたあのときと同じ、緊張した顔をしているのだろうな、と思った。だから私は、今は何も見えないけれども、両手を布団から出して、握手ができるように、うんと伸ばした。


「心配ありがと、大丈夫だよ。もっとちゃんと用心するね」

「……それ、握手か?」

「うん。握手。頑張るねーって」

「あのな、両手での握手は安易にやることじゃ……」

「それ、チェレーゼにも言われた。おんなじように、心配そうにさ。本当二人って似てるよ、そういう優しいところ……」


 私の手のひらにおずおずと指先がぶつかり、次第に温かいものが絡まる感覚がした。普通の握手ではなく、指の間に圧迫感があり、もっと複雑で強固に繋がり合っている。意図した形ではないが、彼の震えが伝わってきたから、指摘の代わりに、握る力をわずかに強めた。


「私ねえ、自分からこれしたのは、チェレーゼとピグトニャだけだよ。今後も多分、そんなにしないよ。安易じゃないよ」

「……なんで俺まで」

「だから、似てるからだって。二人が」


 しばらくすると、彼の啜り泣く音が、イヤホンを通じて、本来の音より鮮明に聞こえた。なんで泣いているのかはわからない。私が何も見えないからって、油断しているんだろうな。じきに彼の手の力は弱まり、自然と握手もほつれた。そうして、彼の頭が私の寝ているベッドに投げ出されたのが分かった。私はなんとなく、その頭を探り当てて撫でてやる。何か言われるかと思ったが、彼は啜り泣き続けるだけだ。姉とよく似た色の髪の毛が、私の手にほぐされ、絡みつき、ほどけていく様を想像した。それが今、実際に起きていることであるのが、なんだか信じられない気持ちだった。私はそれを続け、そのうちに眠っていた。

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