ピグトニャの家
ポータルの中は、等速で静止しているときはいいのだが、歩いて運ばれているときはかなり揺れた。体は固定されているし、どこかに触れている感覚もないのに、揺れているという衝撃はダイレクトに伝わってくる。持ち主がぐるんぐるん振り回したりしたら、終わらない絶叫マシンになるだろう。
[ついたぞ。起きてるか?]
[起きてるよ]
[……悪いんだが、今俺の家にきていて……このまま出してもいいか? 嫌なら、ジムの救護室とかに行くけど……お前の今の状況は、あまり人に見せない方がいいと思う]
[全然ここでいいよー]
[……もう少し警戒心を持った方がいいと思うが……それも地球の文化か?]
私は、寝巻き姿で応対した日のことを思い出して、すっかり恥ずかしくなった。あのときのピグトニャも、単なる私のやらかしに、文化の違いかと疑問を示していた。今もそういう話だったのだ。男性の家だと深く考えていなかっただけ……とは言い出せず、自分のズボラさが情けなく、頬が熱くなるのがわかる。ごめんちょっとちょっとちょっと待って! と叫んだのだが、時すでに遅し、引っ張られるように外へ放り出された。
[……やっぱり嫌だったか? 戻る?]
[いやそうじゃなくて、いや、あの、大丈夫……]
[もう普通に喋っていい。室内だから]
今はおそらくベッドに寝かされている。どんな部屋なのか見てみたいと思ったが、あらためて瞼を開こうとしても、やはりダメだった。
[状況は変わらずか? 少なくとも俺の肉声は聞こえてないな]
「聞こえてない……目も開けられない。でも、ここが明るいか暗いかぐらいはわかるようになったよ。少しよくなったのかも」
[よかったな。聴覚についてだが、ちょっと試したいことがあって、この骨伝導イヤホンをつけてみてもらってもいいか]
「なるほど! いいよー」
手の上に、イヤホンと思わしき物体が乗る。目が見えないので少し難しかったが、なんとか着用すると、ピグトニャの車でよく流れている変わった曲が聴こえた。
「聴こえる!」
「……おー、じゃあこれも?」
「聴こえる!」
「あーよかった。テレパシーは疲れる」
おそらく、通話機能をつかって、イヤホンから自分の声を出しているのだろう。
「振動は伝わるってことなのかな? 肉声でも、鼓膜が震えて聞こえるわけだし同じな気もするけど」
「天啓の反動ってのはそんなもん。理屈というよりは、本人のイメージや固有能力の内容で決まる」
「天啓の反動?」
「今から説明するが、寝てりゃ治る。心配することはない。でもまだ寝るなよ」
そう言いながら、体に布団がかかってくる感覚があった。暖かい。
「あ、そういえば温度……というか気温? 気温が感じられる! さっきまでは、直接触れてる物体の温度しかわからなかったのに」
「ポータルの中が暑くなかったか心配してたが、そりゃ運が良かったな。水飲んだ方が良さそうだが、飲めるか?」
「飲んでみる」
イヤホン越しに、ピグトニャが水を入れる音が聞こえてきた。生活感のある音とは、こんなに安心するものだったか。私はピグトニャの介助を受けながら、なんとかコップ一杯の水を飲んだ。




