帰路
ピグトニャは、勝手に拝借していたソメヤのスマートフォンを見た。壁紙は、ピグイタン全土で流行中のマスコットキャラクター『きボット』で、通知を確認すると、動画サイトの更新だとかメルマガだとかゲームだとか、しょうもない通知がたくさん来ていた。
──こいつ、ピグイタンに馴染むの早すぎるだろ。
目的だったメッセージアプリの通知を開くと、チェレーゼから、『戻れますか?』と連絡が来ていた。10分前。彼がテレパシーで保護完了の旨を伝えたのが、だいたいそのぐらい前だった。他にも少しメッセージがあったが、それ以上は流石にプライバシーの侵害になるので見るのをやめた。
──あとで通知にメッセージ内容を表示しないよう設定させるか。セキュリティには気を遣ってもらわないと困る……。
次に自身のスマートフォンを取り出した。ソメヤに説明したとおり、テレパシーはピグトニャにとって燃費が悪い技術だ。緊急性も秘匿の必要性も低い情報を伝えるには、メッセージアプリのほうが格段に便利である。
[読める状況になったら連絡ください]
すぐに既読がつき、1分もしないうちに返事が来た。ピグイタンの国民は文字入力が異様に得意であるため、大抵チャットは爆速である。そのスピードに合わせるため、さらに入力が速くなる。
[今ちょうど大丈夫になったところ]
[状況は?]
[母親の方は悔い改めたみたい。さっきゆるしを授けて、今後の説明を終わらせた。そっちは? ソメヤ様の既読がつかなくて。もしかして一緒に行っちゃった?]
[いや、体調を崩したらしいから休ませてる]
[そうだったんだ。こっちは今父親の帰宅を待ってるんだけど…真のモンスターカスタマーは、多分こっちみたいで。終わったなら来てもらおうかと思ったんだけど、それじゃ無理そうね]
クエストの概要を聞いているピグトニャは、にわかに不安になる。姉は誰よりも強いし、現地警察も待機しているだろうが、乱暴な男が彼女に暴言を吐く様をイメージすると、いささか不愉快になった。
[俺が行こうか]
[絶対必要ってわけじゃないから平気。むしろ、ソメヤ様の体調は大丈夫?]
[しばらく寝かせたほうがいいかも。少なくともそっちに行くのは無理そう]
[じゃあソメヤ様を連れて王都に戻ってもらえる? 帰る時間がわかったら連絡するけど、もしかしたら一泊するかも。近くの神殿に空き部屋があるみたいで]
心配だが、状況が状況だ。仕方なく了解した旨を送り、スマートフォンをしまう。ポータルの中で間抜けに不安顔を晒しているであろうソメヤのことを思い、ピグトニャはため息をついた。
──姉さんが戻る前に治るかな。数日寝込むことにならなければいいんだが。できれば、姉さんには伝えずに済ませたい……。
ピグトニャは帰路に向け、何から説明すべきかを考えながら歩いていった。ソメヤの入ったポータルを、できるだけ揺らさないよう、注意を払いながら。




