保護成功
「おい、ソメヤ、どうした!?」
「そ、ソメヤ」
「あ、えっと、サルーニャちゃん大丈夫!? 大丈夫そうだね、えっとごめん、今、何? なにこれ?」
サルーニャの呼びかけに答えながらも、混乱はおさまらず、私は相変わらず真っ暗な混沌の中にいる。サルーニャのことは見える。と思っていたが、見えるというよりは、わかると言った方が近いことに気がついた。彼女の顔の毛穴の数さえも数えられそうなほど具体がわかるのに、彼女と私が座っているベンチがどんな色や形状か、今の空の色は何色か、そんなことがわからない。
「ぴぐっ、ピグトニャ、神官様、が、」
「え? ピグトニャ?」
「……えっと……君が、サルーニャ・トゥー?」
「は、はい! サルーニャ・トゥーで、す!」
「はじめまして。知られてるみたいだけど……俺はピグトニャ・イグノジー。こいつに伝えてくれる? 保護隊が来たって」
サルーニャから、「ピグトニャ神官様が、保護隊が来たと言っている」と伝言され、なんとなく状況が理解できた。私はなんらかの理由で今サルーニャに関わる情報以外を知覚できず、ピグトニャがいることも、保護隊が来たこともわからない。声も届かず、目も見えない。それにしても、なぜピグトニャが来たのだろう? 保護隊は養護施設の職員が来ると聞いていたのに。とにかく、保護隊が来たなら、私はそれを彼女に説明する義務がある。
「サルーニャちゃん、さっき言ったことをやるために……一緒にきて欲しいところがあるんだ。脚もリハビリしなきゃいけないし、学校行く前に勉強をした方がいいし、タイピングも覚えた方がいいからね」
「タイピング、みんな、するの? 難しい?」
「簡単簡単、さっきも上手だったし、すぐできるよ。みんなやってる。本当だよ。……ただね、しばらくお家を離れることになる。お父さんやお母さんにも、お勉強が必要だから……。だから、次にお家に帰ったりご両親に会ったりできるのがいつになるかは、わからない。でも、私たちはそれが必要だと思ってる。私やチェレーゼやピグトニャのこと、信じてくれる?」
サルーニャは逡巡した。頷いたら親と遠く離れ、二度と会えないかもしれないと考えたのだろう。私たちからすれば最悪な虐待毒親だとしても、子どもからすれば唯一の両親だ。それも、悪意からではなく愛からの虐待であれば、なおさら難しい……。サルーニャの脚は萎えて筋力が衰えてこそいるが、あざができるほど窮屈な足枷にもかかわらず、脚が鬱血して腐り落ちたりはしなかった。毎日治癒魔法をかけてもらった、というのは本当なのだろう。だからこそタチが悪い。サルーニャが首を縦に振らなかったとしても連れて行くしかないとは思っているが、その場合、少女の心に大きな傷を残すことになるだろう。どうか信じてほしい……そう祈っていると、彼女の心が急激に前向きな方向に傾いた。
「サルーニャ。俺からもお願い、一緒に来て欲しい。俺も昔、同じようなことがあって……親と離れた。そのおかげで、学校に行けて、友達ができて、今も楽しく生きてる。悪くない選択だと思うよ」
「は、はい! ピグトニャ神官様の、こと、信じます!」
どうやら私の祈りが届いたのではなく、ピグトニャに何かを言われたらしい。美形の男って便利だなあ。




