諦念
震えを抑えてあげなければ。安心させてあげなければ。チェックメイトとなる一手を、打たなければ。どうせ何をしても同じなら……。
「だから両脚で立って、自分の声で話して、学校行って……いいんだよ。何をしても、しなくても」
サルーニャの瞳が潤み、下まつ毛が濡れたのがわかる。白目に細い血管が浮き出て徐々に赤く染まっていくであろうことも。本当に? と訊ねる彼女に、しっかりとした頷きで応える。
「もう、痛いこと、なくて、いいの?」
「うん。いいよ」
「しゃべって、いいの? 脚のやつも、外したままで、いいの?」
「いいよ。二度とつけさせない」
「学校にも、行っていいの?」
「うん。私が連れてってあげる」
ひとつひとつ、確かめるように問いかけるものだから、ほんの短い質問のはずなのに、ひどく時間がかかった気がした。彼女の蝋燭は燃え盛り、私はそれを祭壇に捧げ、闇を退けるための光とした。あとは彼女が、あとわずか、ほんのわずか、勇気を出すだけだ。
「……サルーニャ、魔法が、使えなくても……いいの?」
私はサルーニャの頭を撫でるか抱きしめるかしたい気持ちになったが、他人の手が自分に近づくと怯えた表情になるのを観察していたので、やめた。何かをすることよりも、しないことで安心させられる場合もある。私は大人として、このクエストを受けたものとして、ピグイタンの勇者候補として、彼女の勇気を煌々と奮い立たせる手伝いをしなければならない。暖炉に炎を灯したら、薪をくべるのが当たり前であるように……なんでもないことのように……息を吸って吐くぐらいのことでしかないというように、私は答える。
「いいよ。魔法、使えなくても」
サルーニャは声を押し殺して、ひどく静かに泣いた。いつもこうしていたのだろう。声を出すことどころか、感情を露わにすることも制限されていたはずだ。両親を優しいと言いつつも、離れた空間でこそリラックスできているのは、見ていればわかった。大笑いしていた時もそうだ。喋り慣れていないのと同じぐらい、笑い慣れていなかった。
ここまでなんとか抑えていたが、静かに涙する様子を見ていたら、私まで涙が止まらなくなってきた。彼女の精神を固有能力で見つめ続けたせいか、もはや私の心はこの少女と同体であった。彼女は勇気を出した……諦めるという勇気。生まれた頃からずっと強いられ、努力していたことを、できないものはできないと諦める……絶望にも希望になりうる劇薬を、見事彼女は飲み干した。こんなに素晴らしいことがあるだろうか!
「……ソメヤ? おい、大丈夫か?」
「……」
「ソメヤ、ソメヤ、ちょっと」
「……!?」
サルーニャが何かに驚き、声も出せずに固まった。急激に驚いた彼女の変化に私は警戒し、辺りを見渡そうとして……何かがおかしいと気がついた。何も見えない。まるで、目を閉じているときのように……やがて私の体が揺さぶられ、私は完全に混乱に落ちた。




