国民になるまで
この動画は、ソメヤと話した次の日に、彼女から共有されたものだ。決勝戦を見たチェレーゼは、確かに胸が熱くなるのを感じた。これが、人々が熱狂する、タイピングというものか。そしてなにより、この世界に来たばかりのソメヤが、そういった動画を熱心に見ていることに感心した。彼女は自分よりよほどピグイタン人だと思い、改めてタイピングという技術と、ピグイタンという国に感動した……魔法によって曇っていた目を、魔法なき純粋な人の力が、晴らしてくれた。
「魔法みたいな派手さはないけど、その分、指の動き、打鍵速度、正確性、鋭い駆け引き……色々な要素が鮮やかにわかるんです。この四角い機械と両手だけで……歓声と熱狂を生み出している。これがタイピング、これが、ピグイタンを支えている技術」
トゥー夫人は画面を素直に覗き込んだ。何を思っているかはわからないが、その目が集中力を失ってあっちこっち行ってしまう、なんてことはなかった。
「出場者には適性者も非適性者もいますが、この回で優勝したのは、非適性者の女性……スーザン・カーニャーです。彼女も、適性者の両親と妹を持つ、家族の中で唯一の非適性者……サルーニャちゃんと同じです」
「娘と同じ……」
「スーザン選手は……ピグイタンでは、今や最も注目に値する人物です。何しろ5年前の初優勝から今まで、4連覇しています。今年の大会で5連覇なるか、と、国中が彼女に注目しています」
「打つのが速すぎるけれど……こんなの、肉体強化無しで可能なんですか?」
「それが可能だから、面白いのです。魔法無しでも、人間って、面白いんです。……この国ならば」
魔法のないタイピングって、どんな感じですか──そんな愚かな質問をした数日前の自分を思い返しながら、トゥー夫人に語りかける。
「もっと知りましょう、非適性者の方々のことを。この国を。タイピングを。私たち勇者パーティ以外も、見て、感じてください。少しずつ。……そして、娘さんと関わるのは、その後にしてください」
「……それは、どういう」
トゥー夫人は、意味がわからない、という顔をした。そうだろう。今まで優しかった神官様が、急に訳のわからないことを言い始めた、そう思うだろう。だが、ずっと、これを言うタイミングを図っていた。
「はっきり言っておきます。声を出すことを禁じ、片脚を封じ、外へ出さず、常に監視下に置く。これらは虐待です。ですから、あなたたちは十分な事情聴取と、カウンセリングを受けなければなりません。そうして安全が証明されるまで……」
トゥー夫人の手と唇がブルブルと震え出した。しかし、言わなければならない。宣告しなければならない。実は先ほど、サルーニャの保護が完了した、と連絡が入っていたのだ。
「面会は禁止。これは命令です。サルーニャちゃんは、強制保護の対象となりました」




