親の心
私とサルーニャはベンチに並んで座る。私はポータルから、駅に着いた時に買っておいたパンを取り出した。
「とりあえずお昼食べよっか、腹が減っては戦はできぬっていうから」
「……?」
「もしかしてこっちには同じ意味の言葉ないのかな……? ごめんね、実は私、ピグイタン出身じゃないんだ」
どっちがいい? と、菓子パンと惣菜パンを差し出すと、サルーニャはおずおず菓子パンを手に取った。やっぱり子供は甘い方が好きか。二人でもそもそ咀嚼しながら、あえて深刻そうな空気を出さずに、努めて自然な声色で話す。
「サルーニャちゃんは、お父さんとお母さんに喜んで欲しいんだね」
「……うん」
「お父さんとお母さんは、どうして魔法ができるようになって欲しいんだと思う?」
「……えっと。勇者様、みたいに、みんなに、愛されてほしいって。……お父さんと、お母さんも、ピグイタン生まれじゃない。生まれたばかりの、サルーニャをつれて、こ、この国に、引っ越した。勇者様が、魔王を、倒すのを見て」
「……どこの国の生まれとか、わかる?」
「ソラージル。魔導士様の国」
私はぞっとした。そして、推測に過ぎないが、概ねの事情を理解した。
おそらくこの両親は、ズィギズとして処分される運命のサルーニャを助けたいと思う程度に、ソラージルにおいては先進的な倫理観の持ち主だった。そんな折、勇者パーティの活躍を見る。魔王の存在は国際問題だったようだから、ソラージルでもその活躍は耳目を集めていたのだろう。そしてそのリーダー、勇者がズィギズ……非適性者であることを知る。そんな道があったのか、と感銘を受けた両親は、サルーニャを連れてピグイタンへ亡命する……。そして、ピグイタンの価値観に完全に馴染むことはできないまま、独自の倫理観と信仰を保ち、今に至る。
「魔導士様も、ソラージル、うまれ?」
「ううん、違うよ。もっと遠い国」
「ふーん」
「あとね、私は魔導士様じゃなくて、ソメヤって呼んでほしいな」
「そめや」
「うん。ソメヤ・イストゥールっていうの」
「わかった」
こうしてクエストで名乗るたび、私の中に、『染谷いつな』ではなく『ソメヤ・イストゥール』としての自我が育まれていく。この名前を名乗るときは、いずれ勇者になる者としてふさわしい行動をしたいと、そういう祈りを込めている。そうだ、私はいずれ、二代目勇者:ソメヤ・イストゥールとなろう。そして、先代の心残りを果たしてやろう。
せっかくこの国に召喚されたのだから……適正者も非適性者もない、タイピングの国に。




