子の心
公園のベンチで拘束具を外そうと試みたが、思ったより簡単ではなかった。ベルトを切ればいいだろうと考えていたが、触ってみると想定よりずっと硬い素材でできていて、魔法で肉体を強化しても簡単にはちぎれそうになかった。私の手が脚に触れるたび、サルーニャは顔を歪めた。
「痛いよね、ごめんね」
「……」
彼女は無言で首を振る。自分は大丈夫だと必死にアピールするように。
「痛い時は、痛いって言っていいんだよ」
「……」
「あー、とか、うー、とかでもいいよ。絶対怒らないから。もうちょっと頑張ってね」
「……」
結局鍵を熱で焼き切ることに決め、作業がしやすいよう体勢を調整してもらう。
「ごめん、ちょっと熱いかも。できるだけ冷やすし気をつけるけど、少しだけ頑張って」
サルーニャはこくりと頷く。私は右手の中指に熱を集め、人差し指と薬指に、その熱の分の冷たさを集めた。中指で焼き切りながら、人差し指と薬指で周囲を冷やし続けることで、熱が伝わって火傷することを防ぐ。上手くいくかはわからないが。
「栄えある聖典と唯一の神のみ名によって、熱よ集まりたまえ、奪われた熱も集まりたまえ、防御せよ、熱よ集まれ、熱よ滅せよ、かくあれかし」
口述は得意ではないが、指に魔法を使う以上タイピングは使えない。できるだけ意識を集中させ、防御した指をそれぞれ超高音と超低温へ染めてゆく。手が震えそうになるのを意志の力で抑え、怯えた少女を傷つけないように慎重に作業する。じゅっ、とものが熱されて溶ける音がし、煙が吹き上がる。それを冷やし、全体へ熱が回るのを防ぐ。魔力のコントロールのため、ぶつぶつと呟き続ける。集まれ、集まれ、集まれ、集まれ。魔力素子へ指示を伝えるという意思を強く持てば、呪文でなく自分の言葉で呟き続けるだけでも、コントロール精度は格段に上がる……そうピグトニャから習った。
太ももと足首の鍵を焼き切り、ひねってベルトから外す。怖がらせないよう、慎重に拘束を解くと、痛々しいあざが眼前に現れた。
「これは痛そうだね……気休めにしかならないかもだけど、治癒かけとくね。天にまします私たちの父よ、どうかその奇跡を眼前に。ピグイタン万歳、聖セレンゼの慈悲を媒介として」
今度はタイピングも使ってバフをかけた上で治癒する。見た感じはある程度良くなった。
「脚は……動かせる?」
「う、動かす、と、……」
「痛いんだね。ゆっくりでいいよ」
膝にも治癒をかけてやると少し楽になったようで、恐る恐るではあるが、ゆっくりと曲げ伸ばしし始めた。
「脚、動かすのは、ひさしぶり」
「そっかそっか、どれぐらいぶり?」
「……半年、ぐらい?」
「そっか……」
「半年ぐらい、前、大人が来て、学校に通わせろってお母さんに言ってた。サルーニャ、通いたいって言おうとして、声出した。怒られて、脚をしばられた」
「怒られたんだね。いつ頃から喋るのを止められてるの?」
「……わかんない。ず、ずっと、昔から。でも、頭の中で、いっぱい喋ってたから、喋れる。でも、て、テレパシー、できない」
そこまで言って、サルーニャは項垂れた。
「お、お母さん、テレパシーできるまで、喋るなって。それか、この、脚の鎖を、引きちぎるか、してみせろって。そしたら、学校も……。サルーニャ、頑張った。ね、ねえ。魔導士様、サルーニャの頑張りが、足りないの?」
思わず口籠もる私に、涙目の少女は、途絶え途絶えになりながらも訴えてくる。
「お父さん、お母さん、は、魔導士様。普段は、優しい。サルーニャに、ご飯くれる、お風呂も、入らせて、くれる。脚、毎日、魔法で、痛くなくしてくれる。魔導士様、おしえて、サルーニャ、どうしたら……どうしたら、お父さんとお母さん、よろこぶ?」




