絶句
「これが、娘のサルーニャです。挨拶なさい」
「…………サ、サ、サルーニャ・トゥーで、す。よ、よろしく、……おねがい、します」
紹介された少女を一目見た瞬間、私は絶句した。その少女は左脚を曲げ、右脚だけで立っている。そのため松葉杖をついている。最初は怪我でもしているのかと思ったが、そうではない。太ももと足首にはベルトがついており、その間を太く短い鎖が繋いでいる。それらが、常に膝を曲げるよう彼女に強制している。健康な足を拘束し、あえて使わせずにいるのだ。ずいぶん長いこと続けているのか、見るからに右脚が太く、左脚は細い。抜けないようにするためか、ベルトはきつめに絞められ、鍵がかけられている。萎えた太ももに残るわずかな肉が段差を作り、鬱血している様子が見てとれる。眩暈がしそうだった。
「不自由が原初魔法を産むと聞きまして、片脚で生活させているんです。意思疎通も基本的に筆談なもので……久しぶりに声を出させたから、挨拶が拙くて申し訳ありません」
今にも声をあげそうになった私を、チェレーゼが手で軽く制する。
「まずは、色々とお話を聞かせてください。その間、娘さんにはプロによる手ほどきをいたしましょう。こちらはソメヤ・イストゥール。ご覧になっていただいたかわかりませんが、前回のピグイタン最強決定戦で優勝した……バラーズ・ジム・プロチームの大将です」
「あぁ! すみません、ピンと来ずに……拝見しましたよ! 新世代現る、といった試合でしたね。全国優勝者の指導を受けられるなんて、ありがたいことです」
「ご紹介に預かりました、ソメヤ・イストゥールです。試合をご覧いただいて、ありがとうございます」
私は胸糞悪さを噛み殺しながら、営業スマイルで片手の握手を交わす。
「魔法を使いたいので、外に出ても構いませんか? そう離れはしませんから」
「しかし、まだ少し暑いですよ」
「そうでもなかったですよ。サルーニャちゃんはどうかな? 外でもいい?」
私が問いかけると、サルーニャはこくこくと頷いた。その様子がどうも必死に見えた私は、確信を強めた……部屋にカメラや盗聴器が仕掛けているのではないか、という憶測について。根拠はなかった。しかし、娘に不自由な生活を強いるため、常に監視しているのではないかという直感は、突飛だとも思えなかった。部屋で声を出していないか、足を解放しようと試みていないか、そういったことを監視され続ける生活を送っていても不思議ではない。だからこのおとなしそうな少女、サルーニャは必死に頷いたのではないか、そう思えた。
ピグイタンには四季があり、今は夏の終わり頃に当たるようだ。日本よりも多少涼しいので、外に出てはいけないというほどの気温ではない。現地人からしたらかなり暑いという可能性もあるが、いざとなれば魔法で無理やりなんとかすればいい。とにかく、今後の動きのためにも、この家から引き剥がしておきたい。
「本人も大丈夫みたいなので、行かせましょう。ソメヤは魔力効率が良すぎて……屋内では少々危ないかもしれません。すぐそこに公園がありましたよね、あそこならご近所の迷惑にもならないと思います」
チェレーゼの助け舟によってトゥー夫人が納得したので、私はサルーニャを連れて外へ出た。本当は抱き上げてやりたかったが、トゥー夫人がどう思うかわからないので、痛々しいが松葉杖のまま歩いてもらった。玄関から外へ出たところで、不意に機械音声が響く。今日の服はあの大会で着ていた、チェレーゼ謹製、謎の通信機能付き衣装である。早速役に立つときが来たようだ。
[その子は強制保護します]




