ピグイタンらしい勇者
「それで結局、ピグイタンらしい勇者って?」
私が話を最初に戻すと、チェレーゼは、これもまた短く言えないのですが、と前置きして語り始めた。
「私たちの間違いのひとつは、勇者様というカリスマ、ただひとりによって世界を変えようとしたことだと、最近気がつきました。本当に最近……ソメヤ様と過ごすようになってから」
「私?」
「元々このプロジェクトは、勇者様のいなくなった悲しみから立ち直れずにいるピグイタンを再生するための試みでした。ですから、ソメヤ様のことは、純粋に才能だけで選びました。非適性者であることにこだわるのもやめ、純粋な強さで選び、二代目の勇者になってもらい……次は君たちだ、と、国民に言ってもらおうと」
「うん」
それは最初に聞いたので、なんとなく意識している。勇者というジョブが何をすべきかはまだあまりわかってないが、魔法を使うときのコツとかはこっそり書き留めている。『勇者になる方法』みたいな本を出版してから地球に帰ろうかな。しょうもなさすぎて「やめてください」と止められる未来も見える。
「勇者様は、支持者こそ多いものの……やはり育ちのためか、他者への警戒心が抜けきらず……どこか人を寄せ付けない雰囲気のある方でした。ソメヤ様は真逆です。適性者とか、非適性者とか、大人とか子供とか、いろんな事情をすっ飛ばして懐に入り込んでくる。人柄はさほど考慮していなかったので……無意識に勇者様と重ねてしまっていた愚かな私には、驚きや戸惑いを感じる瞬間もありました」
私を「うるさい」「馴れ馴れしい」「おせっかい」などと評価する地球の友人の声が思い起こされる。その驚きや戸惑いの半分、いや7割ほどは、チェレーゼの愚かさではなく私の愚かさのためである。申し訳ない。3割はチェレーゼのせいかもしれない。
「あなたはジムの仲間と切磋琢磨し、偶然出会った悩める少年を助け、まだピグイタンに来たばかりなのに、あらゆる人から噂をされています。それで、はっと気がついたのです。あなたの精神は、国母聖セレンゼに通じるということに」
「え? そんな偉大な人に?」
うるさくて馴れ馴れしくておせっかいな私の精神が、国母、聖人、と呼ばれ、神殿やらギルドやらの名前になってる人に通じると言われても、全く意味がわからなかった。私の顔を見て、チェレーゼはくすくす笑う。楽しそうに、親しみを込めて。
「聖セレンゼは、ただひとりのカリスマではなくて、みんなの中の一員でした。きっと聖セレンゼ自身、自分を偉大な人物だと思ったことはないでしょう。彼女には、この人が立ち上がるなら自分もやってやろう、そう思わせる親しみやすさがあり、それによりズィギズたちは団結したのだと伝えられています。こちらが縋り付くのではなく、向こうから手を差し伸べて引っ張ってくれる、そんな方だと」
「へー、かっこいい」
自覚がないんですね、とチェレーゼは言った。私は、そう言えば自分に通ずるものがあるって話だった、と思い出して、一気に頬に血が上るのを感じた。けれどチェレーゼは、それ以上茶化すこともなく、真剣そのものという顔で見つめてくる。
「あなたにも、同じものを感じます。それを……ピグイタンらしい勇者、と、私は呼びます」




