後悔
「勇者が……非適性者?」
「そうです。私たちは、非適性者の彼が勇者となれば、世界から差別がひとつ減るだろうと信じていましたが……実際には、むしろ悪化させたように思います」
「悪化……」
「彼が戦えた理由のひとつに……原初魔法の存在がありました。彼はスラムでの過酷な生活のためか、知らず知らずのうちに原初魔法の使い手となっていたのです。それも、かなり強力で、多彩でした。最も基本的な肉体強化のほか、テレパシーと自身への治癒が使えました。彼はソラージル出身で、人売りから逃げた身です。もし適性者であれば、あの国で大魔導士の位を得ていたことでしょう」
私は素直に、すごい、と讃える。
「そうです、すごいんです。彼は私たちから見れば『非適性者』ですが、非適性者からすれば『魔法の使い手』です。当時の私たちは、そこまで意識が回らなかった。結果、人々は原初魔法に焦がれ……熱狂的な勇者ブームによって、苦行や自殺未遂、子への虐待が相次ぎました。それらに意味がないことがわかると、すぐに落ち着きましたが……人々の心の中にあった、飽くなき魔法への憧憬を、私たちは浮き彫りにしてしまいました」
「……」
「私たちは活動中、彼が非適性者であることを公表し、彼のメディア露出を増やし、広報活動に熱心でした。良かれと思っていたのです。しかし結果は……ピグイタンには元々無かったはずの差別を、私たちが生み出すことになった。ピグイタンだけでなく、他国でも同じことが起きている。それだけでなく、ソラージルにおける非適性者差別もより苛烈になりました。私たちは失敗したのです……今回のクエストは、その残り火のようなもの」
チェレーゼはため息をついた。
「私は依頼者を散々口汚く罵倒しましたが……元を辿れば、私のせいです。最も広報に熱心だったのは、私ですから」
「そんなことないでしょ」
私はつい反論していた。考えるより先に口が動いていた。豆鉄砲を喰らったような顔をしているチェレーゼに、今度は私が畳み掛ける。
「原初魔法を使える人は他にもいるんだし、勇者がいなくても同じこと考える人はきっといたよ。逆に、勇者がいなければ、原初魔法の存在こそ異端で気持ち悪いとか、中途半端とか、そういう差別受けてたかも。それに非適性者への胸糞悪い差別は元からあったんだし。誰かのせいってこと、ましてチェレーゼのせいってことないでしょ」
「……とはいえ、私は非適性者の方の気持ちを理解できていませんでした。そして正直、今もできていないんです。それで今も説教の内容に悩んで……あんな……失礼な質問までして」
「ああ、いや、あれは地球でもよく言われるし大丈夫だよ」
「そうなんですか? え、なんで?」
チェレーゼには、魔法が使えないタイピング、というのはすべて同じに見えるらしい。実用性がどうのとか、タイピングゲームしてる時間で他のことやった方がコスパいいとか、そういうこと言われるよと教えたら驚いていた。地球には時折、本当にズケズケと人の趣味に口を突っ込む輩がいる。あれと比べたら、切羽詰まったチェレーゼの質問なんて、全く失礼じゃない。
「そもそも他人の気持ちなんてわからないしさあ、非適性者のことはわからないって前提でいることが大事なんじゃないの、知らんけど」
私の雑な回答に何故か感銘を受けた様子のチェレーゼは、たしかに、と言いながら軽くメモをとった。恥ずかしいのでやめてほしい。




