歪み
「えー……娘さんは10歳。魔法の適性はなし。ご両親は魔法適性あり……魔法虐待の典型パターンですね」
「典型?」
「両親は適性あり、子は無し……というのは珍しいんです。そういうとき、適性者の親が子供を愛せず虐待したり、あるいは歪んだ愛と無知のため、せめて原初魔法だけでもと暴力を振るったりするパターンがあります」
「うえ……」
私が気分を悪くする以上に、チェレーゼは気分を悪くしたように見えた。普段は穏やかでつるりとした眉間に、グッとシワがより、もとより深い二重瞼はより深くなっていた。
「特に前者は、信心のかけらもない、慣性によって魔法が使えているだけの人々で非常に醜い……ですが、子への執着もないので、引き離せば終わり、ということが多いです。困ったのは後者で……おそらくこの例は後者でしょう。わざわざ少なくないお金を払ってるんですから」
「そっか……」
醜い、なんて強い言葉を使うのも、普段のチェレーゼからは考えにくい言語感覚だ。彼女の顔は今にも舌打ちしそうなほど不快感に震え、また、悔しそうに見えた。私は気まずくなり、できるだけ姿勢を変えず、じっと彼女を見守っていた。
「どれ……『魔法適性のない娘のため、今まであらゆる試練を与えましたが、上手くいきませんでした。どうか、愛する娘に魔法の喜びを教えてください』。気持ち悪い文章ですね……魔法適性があるだけで驕り高ぶった傲慢者が……」
「試練って……」
「十中八九、虐待でしょう。魔法で半殺しにしてから治癒するとか、水に沈めるとか、声を出すのを禁ずるとか、さまざまな呪術的アプローチとか……」
「怖! 魔法使わせたいからって、そこまでするもんなの?」
地球生まれの私にはあまりにも突飛な話だが、チェレーゼは努めて落ち着いて、私の疑問に答えた。
「今のは全部、私が実際に見た事例です。冒険者時代に見た……この世の歪みです」
苦虫を噛み潰したような顔で語り続ける。黙っていられないのだろう。
「私たちは魔王を倒したけれど、この世界の根本的な歪みは変えられなかった……それを悔やみ、私は冒険が終わっても、生涯神官でいることを誓いました」
「神官でいると……どう嬉しいの?」
チェレーゼはその素朴な疑問に耳を止め、しばし硬直したあと、軽く自分の頬をはたいたので、私は驚いた。次の瞬間には、いつものまろやかな表情に戻っていた。
「迷える人々を教え導くのも、神官の役目です。ご両親に、それは意味がない、無益な罪であると言い聞かせることができる……そうしなければいけません」




