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覚醒者

「複雑な文脈や歴史があるのですが……こういった行為は、魔法虐待と呼ばれます。子に魔法適性がないことをあからさまに嘆いたり、無理に魔法を使わせようとする親は、時々います。あるいはその逆で、魔法適性があることを恐れられ、差別されることもあります。ピグイタンは魔法国ですから前者が問題になりやすいですが、メヒェリエ全土では後者も無視できない多さです」


 私は、片脚を引きずりながらも、凄まじい力で地面を割っていたあのクマを思い出した。魔法適性のない人が原初魔法を使えるようにするって……つまりは、あのクマのように……魔物に、なるってことなのではないか。


「……魔法適性がない人が、原初魔法を使えるようになるのってたしか、死にかけたときって……」

「それは動物の場合です。人間の場合はそうとも限りません……とはいえ、死に値するほどのショックを受けて発現する例が、やはり多いです」

「じゃ、じゃあ、原初魔法を使えるようにするには……」


 チェレーゼは悲しそうな顔をして教えてくれる。


「平和的な方法は見つかっていません。そのため、愚かにも、過度な苦行……ほとんど自殺的な行為を繰り返したり、あるいは親など支配的な立場にある者が暴力を振るい続けたり……といったことは、時折あります。そう簡単な理屈ではないのに」

「自分の意思では引き起こせないってこと?」

「原初魔法の強さとは……信仰の強さでもあります。原初魔法とは、神が私たち生きとし生けるものに与えた奇跡。特にテレパシーに関しては、神の似姿たる人間のみが持つ力。神は私たち人間の狼藉に怒り、魔法を取り上げた……ですから、神のみ心に適う者でないと、原初魔法というのは操れません」


 私はすこし考えた。テレパシーが原初魔法で、信仰心がないと使えないというなら、私やピグトニャが使っている魔法はなんなのだろう。単純な魔法であればあるほど、原初魔法たるテレパシーに近い、つまり念ずる力が大事なのだとピグトニャは言っていた。


「……って聞いたけど、私、まだ信仰とか持ってないのにそういう魔法使えるのはなんで?」


 チェレーゼは不思議そうな顔をする。


「それは……ピグトニャがそう説明したんですか? 実は私は体得していない技術なので、はっきり言えば理解は難しいです。ですが、あの器用さが原初魔法との組み合わせだとして……一定の説明はつけられます。ひとつ、あなたもピグトニャも、魔法は使えるものだという事実は固く信じていること。いくら無信仰を気取っても、これは揺るぎません、現に使えますからね。ふたつ、それはあくまで魔力素子に対する思考転写であって、もっと純粋な……原初魔法からは、まだまだ遠いということ」

「へえ〜」

「つまり、魔法適性者というのは、生まれつきの預言者なのです。本当の無神論者になることは……ここまで信仰科学と魔術が発展した今や、できません。決して。あなた方の肉も霊も、知らずして神を識っています。……特に、ピグトニャは」


 信仰に関する話はあまりわからないが、ともかく、ここで話している原初魔法と私たちが使う魔法は違う、ということはわかった。改めて訊ねる。


「そしたら、原初魔法の使い手っていうのはどんな感じなの?」

「本物のテレパシーの使い手は……何十メートル先にいる相手にでも、明瞭に自分の意思を伝えることができます。また、受信も得意なので、敵に回せば、私たちの詠唱内容は筒抜けになります。タイピングという、あらゆる詠唱法の中で最も秘匿性の高い技術を使っていても……、です」

「心が読めるってこと!?」

「いえ、心に秘めた思考は読めません。あくまでも、その人が伝える意思を持って外部に放出したもの……話し声や詠唱を、読み取る力です。エデンの言語では、対戦相手の詠唱は翻訳できません。翻訳するようなものではそもそもないからです。しかし、彼らには読める……これは、私たち普通の魔法適性者にはできないことです」


 特別なんだね、と相槌を打つと、そのとおりです、と返ってくる。


「特別な恩寵を受けた方々です。私たちは、こういった人のことを……『覚醒者』、と呼びます」

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