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悪い予感

 ギルドアプリは結構便利だ。新たなクエストの通知が来たり、オンラインで受注予約の申請ができたりする。実際に受注するときはギルドに赴く必要があるが。あとは酒場のクーポンとかイベントのお知らせもくる。酒場についてはポイントカードも兼ねており、金銭感覚がまだあやふやだが、多分100円ぐらいにつき1ポイントもらえる。ときどきチェレーゼとご飯を食べたり飲んだりするのに使うのだが、チェレーゼは安定した収入のない私を憐れんで、勘定のほとんどを出しながら、ポイントはつけさせてくれる。完全に私はヒモである。確かにピグトニャの言うとおり、お金持ちになったら真っ先に彼女に恩返しすべきである。


 五つ星になってから1ヶ月ほどが経つが、指示のとおりジムで鍛えつつ、クエストを片っ端からこなしているだけの、至って平凡な毎日を送っている。チェレーゼとピグトニャは大会がどうとか派手な活躍の場はとか話し合っていたりするようだが、私はそれを横目に自由気ままに過ごしている。もちろん、華々しい勇者デビューに向けたチャンスがあるなら逃す気はないが、この国に来てからずっと気を張り詰めていたから、のんびり異国を味わうというのもしてみたかったのだ。完全に気分は長期休暇である。今地球に帰されても、仕事内容が思い出せなくて困る。


 クエストも、最初のような駆除依頼ばかりではない。荷物を運ぶだとか、探偵まがいの仕事だとか、護衛だとか、いろんな種類がある。地球でいうところの日雇い労働に近い。お金は貯まっていくし人には感謝されるしでそれなりに楽しいが、五つ星相当のクエストはなかなか来ないので、それだけ困っている……そう思っていた矢先、1件の変わったクエスト、それも五つ星相当の通知が来た。


『魔法適性のない娘を、原初魔法の使い手にしてください』


 詳細を見る前から、なんだか心がざわざわとした。悪い予感がする。とりあえずお気に入り登録して、帰ったらチェレーゼに相談しよう、と決め、いや、もう帰ろう、と足早に帰ることにした。アマリに「何かあった?」と聞かれたが、何もない、と答えた。それ以上踏み込まれることはなく、私はジムから出た。


 家に着くと、チェレーゼの方がまだ帰ってなかったので、悶々とクエストの詳細を読んで時間を潰した。ギルド中央会から発信……つまり、聖セレンゼギルドやこの地区一体のギルドだけでなく、全国のギルドに向けた依頼であるということ。旅費は往復出て、報酬もそれなりの大金である。まだ金銭感覚は曖昧なものの、大金であるということぐらいはわかる。それだけのお金を使って……子どもの魔法適性の有無を捻じ曲げようとしている。それが、この依頼。どうしても、人喰いグマの時の少年が頭に思い浮かぶ。彼は魔法適性のことで、今も悩むだろうか。タイピングの練習はしてくれているだろうか。ああ言われたけど、やっぱいいや、何の意味もない……そう絶望していやしないか。


 途中でシェアボタンの存在に気がつき、チェレーゼに送った。既読にはならない。仕事中なのだろう。当たり前だ。しかし落ち着かない。この時間をやり過ごすため、あっちこっち歩き回ってみたり、水をたくさん飲んでみたりしていると、玄関がぎいと開く音が聞こえた。帰ってきた! 私は思わず出迎えに行って、おかえり、と声をかける。


「ただいま帰りました。……送っていただいたクエストですが、帰り道で見ました。これは、あまり良くないですね。本来、申請時に突っぱねるべき依頼です。誰が通したのでしょうか」

「なんか良くない気がしたけど……やっぱそうなんだ?」

「ええ、とりあえず、中で話しましょう。玄関口で話すには長いですし、暑いです」


 私は冷房の効いた室内でチェレーゼを待った。

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