良い勇者
少年たちの姿が見えなくなり、私も手を振るのをやめて満足した頃合いで、ピグトニャが声をかけてきた。
「お疲れ」
「お迎えありがとう〜、遅くなってごめんね」
「討伐連絡はもらったし問題ない。おおかた、住人から色々もてなされたんだろ。大体そうなる」
ピグトニャの運転は意外にも優しい。チェレーゼの方が思い切りがいい部分がある。二人に共通してるのは、車内にあまり物がないことぐらいだ。
私はピグトニャの車に乗るのが嫌いじゃない。余計なものがないことも、流れている個性的なBGMも、ふしぎと私を落ち着かせる魅力がある。話によれば、この音楽性は文化の違いとかではなく、ピグトニャの趣味がマイナーであるだけらしい。
「他はなんかあったか?」
「そうそう、お土産にクマの肉もらったからチェレーゼと食べようかと思って……」
「おまえあれ忘れただろ、クマの首しまうための断熱袋と保冷剤」
「そう! そうなんだよね、仕方ないからその場でドライアイス作って冷やしてあるよ」
「……末恐ろしいな……錬金術の独学は少し怖い。姉さんの方が詳しいから、ちゃんと習え」
「そんな危険なの?」
「魔術の中では特に危険な領域だ。法的にもな。うっかり作っちゃいけないもの作ってお縄になったりとか……」
「それは怖い!」
作ったらお縄になりそうなもの、想像してみたけれどあまり思いつかなかった。お金とかは地球でもお縄になるのでダメそう。あとでしっかりチェレーゼに聞こう。
「あーあとね、魔法適性のない子どもとタイピングゲームしたよ」
「ああさっきの……魔法無しでってことか」
「そう、魔法無しで! 久しぶりだったなぁ、すごく楽しかった、本当にタイピングしてるって感じというか、指が踊り沸き立つ感覚というか……共感した、っていうか」
「共感ねえ」
うん、共感。と、私は繰り返す。私は魔法が使えて、しかもかなり使えるようだけど、それでも、彼と彼の母に抱いたのは、間違いなく共感だった。
「その子さ、魔法使えないならタイピングとか意味ない、って拗ねてたのに、結構速くてさ。タイピング好きなんじゃん、それだけでいい、って思ったの。だって私、魔法の概念さえない星で17年間タイピングしてたんだよ? タイピングって、それだけで十分。だから、これからも練習続けてね、またバトルしようねって、約束したの」
「そうか」
ピグトニャは、運転しながらも、いつもよりずっと優しい声、優しい顔つきになる。その声に驚いて、私は一瞬だけ黙り込む。
「いいことしたな」
「そうなの?」
「そうだよ。おまえはなんていうか……ピグイタンらしい勇者になるだろうな」
「……ピグイタンらしい、かあ。私、ピグイタンの勇者になるのに、この国のこと、ンプァクトのこと、なーんにも知らないなって……さっき考えてたとこ。当たり前だけどさ」
また、さっきの声色で、そうか、と彼は言う。こんなに穏やかで優しそうな彼は見たことがない。何がそんなに刺さったんだろう。こう見えて、実はかなりの子ども好きなんだろうか。本人に聞いても教えてくれなそうだから、帰ったらこっそり、チェレーゼに聞いてみたいと思う。
こうしてはじめてのクエストは終わった。この少年との出来事は、後々まで私の価値観に影響することとなる。




