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最高の世界

 バトルの申し出を受けた少年の目に、闘志のかけらが反射するのを見た。プロに勝てるわけないじゃん、とか文句言いながらダッシュで階段を駆け上がり、ダッシュでキーボードを抱えて降りてくる。その顔は笑顔だ。


「友達とはバトルするの?」

「まあまあ」

「そのときの設定は? 私友達いないから、教えて欲しいな〜」

「えーかわいそ! じゃあ俺が決めてあげる」


 実際、魔法無しのタイピングバトルに付き合ってくれる友達はいない。純粋な速度練習も行うには行うが、私が魔法の概念に慣れてないこともあり、とにかく魔法魔法魔法ばかりで、打つことに向き合う時間がなかった。少年は慣れた手つきでキーボードを叩いて設定する。


「ターン制で、1ターン1分ね。攻撃側は打ち切るとダメージはいるけど正確性と長さで攻撃力が決まるのね。防御側も似たような感じで、全体の正確性が低くなってくと5%ごとにデバフがかかって、あとアイテムとかあって」

「うんうん」


 なんとなく理解した。大会での試合を、魔法を使わず速度と正確性だけに落とし込んだゲームのようだ。きっと他にもいろんなモードがあるけれど、この少年はこれが好きなんだろう。魔法に憧れてこのモードにするのか、このモードが好きだから魔法に憧れたのか、そこまではわからないけれど。


「教えてくれてありがと、じゃあバトルしよっか」

「俺これならつえーから!」

「楽しみだな〜」


 画面がぱっと両者の前に表示される。パソコンがなくても、キーボードを持ち歩けば対戦できるなんて最高の世界だ。ここではキーボードが一種のゲーム機であり、ウェアラブルデバイスであり、単なる入力機器でもあり……こんな良い場所に生まれたのに、魔法の才能の有無だけでこれを捨てるのはもったいない、そう、心から思った。もしこの国が、魔法適性者以外タイピングをしない国になってしまったら、魔法なんかないほうがずっとマシだ。


 考えている間に、ランダムで先攻は少年、後攻が私と決まり、ゲームが始まった。3……両者ともホームポジションを確認する……2……かたかたと慣れた単語を打ってウォームアップする……1……大きく息を吸って集中する……


 ……スタート。

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