お年頃
村の人々が集まって、みんなでクマの肉を食べた。非常に美味しかった。地球のクマもこんな味がするのだろうか。しかし、後になってから、人を食べたクマを食べてよかったのか……? という疑問に苛まれた。依頼人たちが気にせず食べてるんだから、ピグイタン的には問題ないのだろうけれども。
クマの首とお土産の肉は、冷やしておかないと持って帰るまでに腐りそうだ。ポータルの中は普通のカバンと同じで外気温の影響を受けるらしく、となると、かなり暑い。思案した結果、ドライアイスを作ることにした。私が生きているということは大気組成も地球と変わらなそうだし、それなら多分二酸化炭素もあるんじゃないだろうか。細かい作り方は知らないが、二酸化炭素が冷えて冷えて固体になる様をイメージした。作れるんじゃないかな、作れそうな気がする、そう思った瞬間、できた。魔力素子への命令力とやらが上がったのかもしれないし、細かい作り方を知らないのがかえって良かったのかもしれないし、もしかしたらドライアイスだと思って全然違うものを作ってる可能性もある。いずれにしても、輸送の問題は解決した。
「ソメヤさん、錬金術もできるのねえ、そういえばゴーレム作ってたものね」
「ああ、豆もちちゃんのことですか?」
「そう、なんか可愛いワンちゃんのゴーレム」
「可愛い!? 可愛いですよねえ! 誰も褒めてくれなかったんですよ、嬉しいです、実家の犬なんです」
「そっかそっか、私も昔は犬飼ってたのよ、わかるわその、自慢したい気持ち」
依頼人はニコニコしながら、本当にいい試合だった、と言ってくれた。
「あれなら子供にも見せられる。魔法大会ってほら……ちょっと暴力的じゃない? 勿論みんな見てるからうちだけ禁止ってわけにもいかないけど……ねえ。魔法無しのタイピング大会の方も面白いんだけど、どうも子供は派手なものを好むみたいで」
「わかります……わかりますよ……純粋な速度と正確性を競う、それだけで十分にエキサイティングなのに……」
「そうなのよ! 最近若者のタイピング離れなんていってね。うちの子もそうで……ピグイタン王国だってのに。でも、魔法適性がないからやる気出ないと言われると、そう生んでやれなかったのも悪いかなとか思ってね……」
私は目を丸くした。魔法適性のあるなしは、親が子供に悪かったと思うほど重要な要素なのか。普段出入りしているタイピングジムの、ただただ速さを競うだけの暖かな会員たちは、純粋なタイピングを愛しタイピングに愛された幸運な一部の人々で、ピグイタン王国民全員がそういうわけではなかったのか。
「そんな……私がいうのも変ですけど、悪いことなんか、ないですよ、きっと。お年頃なだけです」
「だといいんだけど。ありがとね、クマを退治してもらった上にこんな話まで聞いてもらっちゃって。うちの子、シャイな年頃だから今出てきてないけど、大会の優勝者が来てるって聞いたら、ひっくり返って喜ぶから。良かったら最後に会ってやって」
「私でよければ」
依頼人の案内でまた家に入れてもらう。依頼人はまたもバタバタと階段を登って、息子に声をかける。
「ちょっとおー、今ねえー、前のほら、あの大会で優勝してた……」
「えっマジで!?」
興奮した少年の声が家中に響き渡る。依頼人の倍はある速度で階段を駆け降りる人影が見え、それは私の前を一瞬通りすぎ、行きすぎたことに気づいて戻ってから、立ち止まった。
「これがうちのやんちゃ坊主。ほら、挨拶なさい」




