最高カスタマー
良い魔道具は、術者の詠唱能力向上のため、様々な記録をつけてくれる。スマートウォッチみたいなものである。
<リザルト:戦闘時間3分4秒/詠唱時間2分12秒/平均KPM 775/正確性99%/速度S3>
私自身は1時間ほど戦ったような気分であったが、実際には3分しか戦っていなかったようだ。とはいえ、依頼人に会う前から急にクマに会うかもと構えてビクビクしていたので、実際1時間ほど戦ったといっても過言じゃない。
平均KPMが775はかなり調子が良い。ジムではいつもKPM730〜750、正確性は90%〜95%程度である。大会でもミスは少なかったし、自分は本番に強いタイプなのかもしれない。元の世界に帰ったら記録更新できるだろうなと思うと、少し帰りたくなった。お題が変わるたびに帰って更新してだいふくちゃんをひとなでしてこの世界に戻るのを繰り返したい。
概ねKPMが800を超えたあたりからS4に、850からS5になってくるらしいが、詠唱のスマートさは複合的な計算で決まるので、無駄に細かく打ってKPMを増すとか、ミスが多いとかで、「美しくない」とキーボードに判断されると、容赦なく下がるらしい。スコアの計算方法がわかってくると俄然楽しくなるし、やる気も出る。私は魔法よりも、タイピングゲームが好きなのだ。
「あ、首を持ち帰るんだっけ」
スコア分析に思いを馳せていたら、クエストのクリア条件を忘れるところだった。私は慌てて倒れたクマの方に向かう。
「……これ、どうするのが正解!?」
クマの解体方法なんか知らないし、これは固有能力でも知ることができない。物言わぬ肉塊に私の力は使えないし、そもそも解体方法はステータス扱いには……つまり、私の固有能力で見られる情報には、おそらくならない。仕方ない、やれることからやろう、と思い、ひとまず依頼人の家に戻って、無事討伐できたと伝えた。
「ありがとう! あそこに倒れてるやつ?」
「そうです。確認しますか?」
「そうだね、イストゥールさん呼んでくるよ、なんたって直接襲われてるからね。あと解体も手伝わせるよ……あれ、魔物って食べていいんだっけ?」
「……どうなんですかね? 動物だし、食べてよさそうな気がしますけど……あ、首はギルドに持って帰らなきゃいけなくて、でも普段動物を解体しないもので。ちょうど困ってたんです」
「任せて任せて、うちの村ねえ、大抵狩猟免許持ってんのよ! 魔物でさえなければ、いつも自分たちで身を守ってんのさ。でも魔法使える人はほんと少なくてねえ……魔物が出るとどうしようもなくって……本当にありがとう」
依頼人は両手で握手を求めてくる。前にファーザー・エイリムから求められたときは圧を感じた動作だが、今回は心からの感謝が伝わってきて、私も躊躇いなく両手で返した。
「こちらこそ。先ほど家に入れてくださったこと、忘れません。ありがとうございました」
「あんなの当たり前だから! そうだ、解体した肉も持っていきなさい! 一番美味しいところは今日使っちゃうから、ソメヤさんも食べてって」
思わず泣きそうになる。地球とかいう星ではカスタマーハラスメントという言葉が流行っているのに、こうも違うのか。やっぱり帰りたくなくなってきた。




