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人喰いクマ戦

 急いでドアを閉め、クマと睨み合う。どれだけ魔法が強くても、腕を引きちぎられ、喉を破られたらなにもできない。取っ組み合いだけは避けなければならない。このクマはもう人の味を知っている……そして、両目で私を捉えている。


「急げ急げ……」


 私は非物理型キーボードを両手に配置し、詠唱を開始した。魔物狩りにはいくつかセオリーがあるらしい。魔物を罠や魔法で固定する、体力を吸収魔法で奪い切る、それからスナイパーのように落ち着いて的確に仕留める……といった具合に。しかし、ふたりは私にこう忠告した……「余計なことをして時間をかけるな。一撃で仕留められる」、と。


 打つべきは極々基本の発散魔法、最も原始的な魔力の排出のみ。これを「弱点に向かえ」と命令して放てば、私の威力なら十分であり、最も早く安全である、そう聞いている。しかし、私はクマの弱点を知らない……どこに向かって撃てばいいのかを知らない。知らないものは、イメージができず、命令もできない。地球のクマのことも知らないが、ンプァクトのクマのことはもっと知らない。というかクマなのだろうか。ほとんど近い見た目だからクマと訳されているだけで、中身は全然違う可能性だってある。


 時間はあまりない。最小限のことだけ知れればいい。小さな声で呟くだけでいい──


「──我に見せよ、あなたの弱点を」


 今までで一番、天啓に感謝した。これがなければめった打ちにするしかなかったが、そんなことをしたらこの辺りの全てが破壊されてしまう。


 両の手ではひたすらバフのための長文お題を打ち、口では固有魔法の呪文を口承し、脳内で固有魔法によって得られた情報を意識する。マルチタスクはあまり得意ではないが、仕方ない。クマは呻き、今にも走りださんばかりである。私が打ち切るのが先か、クマが走るのが先か。弱点は見えた。あとは打つだけだ。0.01秒でも早く、先に動いた、打ち切ったほうが、勝ち。


「行け!」


 打ち切ってEnter。命令力が足りないので口承で補いつつ、自身の体から魔力が放たれるのを感じる。クマも動いている。鋭い歯は唾液でテラテラと光り、痛む片脚を引きずりながらも、他の脚は地面を破壊せん勢いで蹴り上げる。しかし私は動かない。目を離してはいけない。私はピグトニャほど練度が高くないから、目を離した瞬間魔力が迷い始めるかもしれない……。高速打鍵により練り上げられた美しい一筋の光は、クマの弱点、心臓のある場所めがけて飛んでゆく。クマはそれに気づき、こちらに向かうのをやめ、避けようと体を逸らした。しかし、私は逃げていない。私は目を塞いでいない、私はいまだに両の手で決まり文句を……呪文を打ち、私のテレパシーを増強して攻撃を助けるように、命中率よ上がれ、どうか当てろ、そしてもっと早くしろと、周囲の魔力素子に命じ続けている!


 結果──私のシンプルなビームは、クマの複雑な動きをものともせず、しつこく追い、貫いた。といっても、ほんの数秒のことであった。私は攻撃終了のコマンドを入力し、ふう、と息をついた。

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