ご挨拶
「すみません、こちらの依頼者の方ですか? クエストを受注した、ソメヤ・イストゥールと申します」
「そうです……あら、もしかして、先日の最強決定戦で優勝した方?」
「あは……そうです。ご覧になっていただけたようで」
依頼人は、いかにも気の良さそうな、たくましい女性だった。私が大会優勝者であることに気がつき、まるでテレビのインタビューが来たときの通行人のようになる。
「そりゃみんな見てるわよ〜! でも殺傷力がある魔法は使ってなかったわよね、大丈夫かしら」
「ご安心ください、抑えてただけですから」
「あら〜頼もしい! じゃ、お願いね。えっとね……クマの写真撮ってあるの。印刷したのがここに……」
有名人、と認識すると一気に馴れ馴れしくなるこの現象、なんなんだろうか。あの大会以来、時々こういうことがある。チェレーゼも若かりし頃、勇者パーティとして有名だった頃はこんなものだったと語っていた。アマリいわく、この土地の人々にとって私は若く見えるようなので、その影響もありそうだ。
「はい、これ。片足を引きずってて……この前近所のイストゥールさんが……あら、あなたと同じ名前ね! あはは! 襲われたときに、魔法が使える方だから、咄嗟に片脚を撃って逃げたんですって。でも仕留めきれなくて……それ以降戦々恐々で……ついにこの間、人が食べられてるのを見たって人がいて……村の人はいなくなってないから、浮浪者かねえ。これはまずいってことで、みんなでお金出し合ってクエストを出したのよ」
「そうだったんですね。危ないですから家の中にいてください。いつでてくるかわからな……」
言いかけたところで、依頼者は私の腕を強く引いて家の中に入れてくれた。
「きた! 外で話すんじゃなかったわ」
台所の小窓から外を覗くと、確かに少し遠めにこちらの様子を伺っている、それらしきクマがいた。さっき受け取っていた写真と見比べてみるが、特徴的な傷跡があるので、間違いない。
「……絶対にお家から出ないでくださいね。ご家族の方は?」
「息子がいるから伝えてくるわ、あなたも、倒してくれたら嬉しいけど、無理しちゃダメよ」
「ご心配痛みいります」
依頼者は階段を駆け上り、「クマいるから! 外でちゃダメだからね!」と息子に声をかける。息子さんは、返事の声質からしてまだ子どもだ。私が来た以上、絶対に被害を出すわけにいかない。
「あのう、入れていただいてありがたいんですけど、私、外から攻撃しますから。鍵かけてくださいね」
依頼人はドタドタと降りてきて、わかった、と頷く。いざというときのためなのか、フライパンやらなんやらを掲げていて、私は苦笑した。
「大丈夫です。私が仕留めます」
私は努めて明るい声でそう答えてから、3回ほど深呼吸して、外へ出た。




