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「とりあえず、来てくれた理由は分かった。ただ……」


 得られた情報を脳内で整理する。今までの情報は、すべて確度が低い。スクリーンショットは簡単に偽造できるだろうし、肝心の監視レポートの中身は見られない。私が彼を信じるとしたら、その理由は、彼の人間性をある程度知っていて、私を騙す理由がないと感じるから……それだけにすぎない。それも、たった1ヶ月、同じジムで訓練を重ねただけの関係で。私は正直にそれを伝えた。


「現時点では、私がピグトニャを信じる理由もないんだよね。そもそも何されてんのかわかんないし」

「……それはそうだ。話せたらよかったが……姉さんを傷つけたくはない」

「あ、ああ、別に話せって言いたいんじゃないよ。私も人の秘密聞くとか嫌だし」


 慌てて訂正するが、ピグトニャは気にしてもないのか、構わず続きを話す。


「それに、話した結果信じてもらえたとしても、今は何もできない……。俺が言いたかったのは、用心しておけということだけだ」

「忠告ありがとね」


 ピグトニャは少し悩むようにポットのあたりに目を落とし、しばらく視線をうろうろとさせたのち、ゆっくりと顔を上げた。


「でも、もし気が向いたら……」


 どこか見覚えのある瞳が、私をじいっと見つめる。ああ、これはあのときの記憶だ。召喚されたとき……「あなたを見つけた」、と縋り付かれたとき。あのチェレーゼと同じ、懇願の顔だ。


「姉さんの様子を見ていてほしい」


 気圧されて初動を遅らせてしまった。その結果、テーブルの上で、緊張と共にぎゅっと握られたピグトニャの両手が、かすかに震えだしたのを見た。私は慌てて手を重ね、応えた。


「勿論! 当たり前! 言われなくてもっ……」


 緊張は、安心したような表情に変わる。この安心を確定させなければならない気がした。


「チェレーゼはもう私にとって、すっごく大切な存在だから!」

「ただいま帰りました……あの、ありがとうございます」

「姉さんおかえり。邪魔してるよ」


 帰ってきたチェレーゼが、困惑顔で私を見つめている。慌てて手を解き、何故だか直立の姿勢をとってしまった。本当に恥ずかしくて、じわじわ、じわじわと顔周りの血管が熱くなってゆく。ピグトニャはさっきまでの震えはどこへやら、平然と澄ました顔をしていやがる。いつから居た!? どうやら、「チェレーゼはもう……」のあたりで、玄関の扉を開けていて、ちょうど私の台詞が終わったところで、この部屋に入ってきたようだ。


「何のお話を?」

「忘れてそうな、帰路の見積もりの提示。迷惑かけてんだから、見積もりより色をつけて姉さんに金返せって話したの」

「あらまあ。大切なわたくしにせめてたくさんのお金で返したいと」

「待って待って待って、そんな話は……」


 勇者でも簡単に払えない大金に、さらに色をつけるなんて無理だ。私はピグトニャを睨みつけるが、彼は全くのポーカーフェイスである。チェレーゼは苦笑しながら、一枚のビラをテーブルに置く。


「でしたらその手始めに、これの話をしないとですね」


 それは宴会でピグトニャが言っていた、『魔物化した人喰いグマの退治』についてのものだった。

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