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七つ星

「ピグトニャが行きたい道に行くべきだとっ、姉としては思ってますがあ、神官に向いてらいなんてことはありませえん!」


 わずかに蒸気した頬、潤んだ瞳、勢いのいい絡み方。酔っ払いらしい酔っ払いにも見えるが、その割に足元はしっかりとしていて、ふらつきやバランスの崩れは見えなかった。あれは計算づく、という発言の真意を確認できないかと、野次馬の気持ちできょうだいを見守る。


「……わかってるくせに」

「いいから飲む! そんな辛気臭い顔、宴会に似合いませんよ! らめです、そんな顔は、私がゆるしませんからあ!」

「姉さんやめっ……」


 ピグトニャの静止は意味をなさず、謎のボトルが彼の口に突っ込まれた。ピグトニャの喉はガボガボと溺れ死にそうな音を出し、流石に私とバルも慌てるが、止める前にピグトニャが椅子から崩れ落ち、ボトルも床に転がっていった。しばらくむせて苦しんだのち、ピグトニャはチェレーゼを睨む。


「あえっ……、これ、みず」

「ピグトニャは飲み過ぎるとすぐそういう顔になる! 姉さんはお見通しですよ! 平気な顔して割と弱いのも、かっこつけて強いお酒飲みがちなのも」

「いやこれはかっこつけとかじゃなくてっ……」

「じゃあなんですか」


 ピグトニャは、バツが悪そうな顔で、ぼそぼそと答える。


「……強い酒なら、少しずつ飲んでても許されるから……」

「なら水を隣に置いときなさい! 水のボトルまだありますからね! あとつまみも食べる!」


 そうしてチェレーゼは水やらつまみを運んできてから、隣のテーブルへ乱入していった。嵐のようだった。隣のテーブルはユアンナやテスなど若者たちとアマリがいて、大盛り上がりだ。こちらが疲れた大人のまったり飲み会なら、向こうはこのままオールでカラオケしそうな大学生の飲み会である。ちなみに、ピグイタンでは15から酒が飲めるらしい。


 いつのまにか椅子へ這い上がり、呼吸も整ったピグトニャが、濡れた体を拭きながら声をかけてくる。


「……な、飲み方や振る舞いの割に、あんまり酔ってなさそうだろ」

「そうだね……体幹がしっかりしてるというか」


 隣のテーブルで乾杯をしているチェレーゼは、片足立ちもできそうなぐらい、素面の動きである。すべてが演技である可能性を思い、なんだかゾッとした。底知れない女だ。


「……チェレーゼ神官様、向こうの雰囲気にも完全に合わせにいっているね。正気だからこそできるということか……多分、あっちの見知らぬ冒険者たちを巻き込んだのも、ギルド全体の英気を養う意味だろうな」

「そうなの?」

「この国のギルドは今衰退しつつある……チェレーゼ神官様はずっとそれを嘆いておられる。聞いてないかい? それを防ぐために他国から実力者を招聘したのかと」


 不思議そうな顔をするバルに、そうだったそうだった、と、慌てて取り繕う。あとでギルドのことはチェレーゼに聞かねばなるまいが、ここで変な疑惑を持たれたくはない。


「あー、そう、そんな話は聞いてはいる。でも来国してからずっと、ジムにしかいなかったから」

「国公認ジムで公認プロになると、いきなり三つ星冒険者になれるんだ。ソメヤみたいに、公認大会で優勝すれば四つ星だ。チェレーゼ神官様はそれを狙っていたんだろう」

「星……」

「一つから七つまであって、基準は全国のギルドで共通。七つ星冒険者は、かの勇者パーティメンバーのみ……ピグトニャ、チェレーゼ神官様、そしてもちろん勇者様。六つ星は今は不在で……現状最高位は五つ星だ」


 ちなみに自分は五つ星、と、バルは冒険者用のバッジらしきものを見せてくれた。この国に来てからよく見る特徴的な星の刻印……十字架のようなバランスの奇妙な星が五つ、刻印されている。


「ソメヤなら六つ星も夢じゃないな」

「ありがとうございます」

「……七つ星もいける。ソメヤは俺より強い。行かなきゃならない」


 ピグトニャは水をグイグイ飲みながら会話に割り込む。


「強いってもさ……なんか技量? とかあるじゃん」

「鍛えたらいい。大会で見せた魔法は、既に大魔法と呼べる」

「でも、ピグトニャみたいにあっさり勝てなかったし……」

「おまえ、俺の上位互換。言っただろ」


 ピグトニャは、シラフの時じゃありえないくらい、じいっと顔を近づけて、こちらの瞳を穴が開くほど見つめる。あまりにも近いから、まつ毛の長さが測れそうだ。1.5cmはある。なるほど、彼が酔っているのは本当らしい。普通に話す分には、普段との差がまったくわからない……姉の勘はすごい。


「おまえがスマートに勝てないのは、ありのままだと強すぎて、余計なコントロールを強いられているから」


 それは、そのとおりだ。私は生来の謙虚さ故にむず痒くなりながらも、頷く。


「冒険者なら……その必要は薄い。殺していい依頼が、沢山ある」


 例えばあれ、とピグトニャは壁を指した。私には遠くて見えないが、彼には見えるのだろうか。相当視力がいいのか、それともそういう魔法があるのか。


「魔物化した人喰いクマの退治……確実に殺し、首を納めること。本来五つ星相当クエストだが……緊急度が高いため、四つ星冒険者も受注可能。その場合各自協力し、十分注意の上達成されたし……。よかったな、あれ一人でやったら、ぐっと五つ星に近づくぞ」

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