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エイリム・イグノジー

「おまえ、様になってたな」

「だってピグトニャがあんな風に煽るから! それっぽくやらなきゃと思って頑張ったんだって」

「じゃあ、煽って正解だったってことだ」


 タイピングジム、ピグイタン最強決定戦は、予想どおり我々の勝利に終わった。アマリの出番がないのが可哀想だということで、2試合目以降はピグトニャが副将になり、アマリもそれなりに善戦した。しかし、みんな何回かは負けた……向こうの先鋒がユアンナ、テス、と連勝し、アマリまでも倒そうとして、大将戦は勝ってもジムとしては負ける寸前になったこともあった。アマリは必死に相手の弱点を見抜き、ボロボロになりながらも勝って、ピグトニャにバトンを渡した。対して、ピグトニャは負け無しだった。誰相手でも優雅に勝ち、その度に……「大将は、俺より強い」と相手を煽ってビビらせる。そういう割に、私の方が苦戦して、なんなら負けそうになることさえあった。怖いのだ……人に攻撃をすることが。


 それでも、いろんな創作魔法を試すことができて楽しかった。普通に攻撃すると相手を殺してしまう……ここ1週間の課題は、どうやって人を殺さず、致命的な大怪我も負わさず、クリーンにやっつけるかだったのだ。ビッグバンのほか、私が受けたような音魔法を試したり、強風でくるくると回して酔わせるという手も使ってみた。とにかく、魔力の塊としてぶつけなければ、致命的にはならなそうだとだんだんわかってきた。力が強くても、有能でも、勇者にはなれません……いつかチェレーゼがそう言ってたのを思い出す。


『強いからこそ、あなたには、類い稀な努力が必要となるでしょう』


 あれは当たっていたな、と苦笑した。特に最後の大将戦は、こちらが死を覚悟したほどだ。こちらは怪我をさせない縛りプレイをしていても、向こうは容赦ないのだから、たまらない。


「いやあ、でも、まさか犬を作るとは。あれウケんな。実家の犬って」

「可愛いでしょ」

「それを一つに集めて爆発させてんのが、サイコパスって感じ。変なやつ」

「そんな……」


 1戦目の豆もちたちは、2戦目以降使わなかった。それは確かに、少し可哀想な気がしたからだ。幸い、私の使うような技術はゴーレムと呼ばれ、人形遣い(パペッティア)という人たちがよくやる手法だということで、特に炎上はしなかった。地球だったら、多分炎上した。スマホはSNSの通知でショートを起こし、私の住んでいるアパートが火事になり、私はまるこげの焼死体になったに違いない。


 ピグトニャはくくくと笑い、それから、ため込んだ笑いを吐き出すように、あーはっは、と大きく笑った。


「にしても本当に、信仰、ないんだな」

「……へ?」

「おまえの魔法はめちゃくちゃすぎる。信仰があったら……イメージにストッパーがかかるせいで……超複雑な大魔法になるから、30秒じゃできやしない。この世であれを、あの速さで再現できるのは……俺ぐらいだ」


 私は、どうしていいかわからない気持ちのまま、ピグトニャの横顔を見つめた。その後、前から足音が聞こえ、その先にも私と同じような顔をした女がいた。


「チェレーゼ……」

「ピグトニャ。大きな声でそういったことを言うのはやめなさい。どこで誰が聞いているかもわからない……しかもソメヤ様は、勇者候補なのですよ」

「ごめんごめん、そんなに怒るなって。パパも一緒? 俺はお邪魔かな」

「別に、邪魔ではありません。ソメヤ様を来賓室前まで連れてきてと頼んだのは、私ですし。ファーザー・エイリム……この方が、勇者候補のソメヤ様です。ソメヤ様、こんな廊下で申し訳ありませんが。こちらが、ピグイタン王国の大神官であり、私とピグトニャの父……エイリム・イグノジーです。人は皆、ファーザー・エイリムと呼びます」

「よろしく頼む、ソメヤさん」

「よ、よろしくお願いします」


 エイリムは両手を差し出した。ピグイタンでは、両手での握手は一切の敵意がないこと、および、それを求めることを示すらしい──間違っても片手で詠唱などできないように。当然、私も両手で応える。


「今回の試合、非常に見応えがあった。いやはや、ここ数年で最も面白かったよ。最近はピグトニャ一強だったからね」

「俺は出ねーって言ってんのに、パパが出ろって言うんじゃんか」

「そりゃあ、父として息子の活躍を見たくないわけがないからな」


 そう言ってエイリムはピグトニャの頭を撫でる。あの無愛想な顔が少し照れ臭そうに、けれども不愉快そうにも歪むのを、私は見逃さなかった。それと同時に……自分でも理由がわからない、微かな胸のざわめきも。


「お前は信仰のスランプに陥ってるだけだ。父が祈ってあげよう」

「いらねーよ」


 権力者に特有の威圧感が、そうさせているだけかもしれない。チェレーゼの父なのだし、この国で偉い人ならば、仲良くしないわけにはいかない。養子だというから、家庭環境の問題で、反抗期が今更きているのかもしれない……いろんな可能性を考えた結果、私はできるだけ社会人スマイルを保った。私は客先で怒鳴られても表情をコントロールしてきた女だ。


「とにかく……ソメヤ様、華々しいデビュー作戦は大成功です! お家に帰って、試合を見返しましょう! ドームの中にいると聞こえないですけどね、本当に大盛り上がりだったんですから。SNSのコメントもすごいですよ、個性的な試合でファンになったっていう人もたくさん」

「なんか恥ずかしいけど、わかった、わかった。帰ろっか、もう疲れちゃった」

「ええ、帰りましょう。車を用意させてます。あ、祝勝会は次の土曜日です」

「え、それ本当にやんの」

「やりますよ! ソメヤ様をチームに入れてくれってのも、無理なお願いだったので……入会の時、バルさんにそう約束しちゃったんです。私のポケットマネーで派手に飲み食いできるならいいって。とほほです」


 チェレーゼは両手で指ハートのようなものを作ってから、ぱあ、と手を開いた。お金がなくなる、という意味だろう。それがなんだかおかしくて、私は違和感も忘れて笑った。

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