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ビッグバン


<ターン開始:残り30秒>


「土よ盾となれ、獣となれ、水よ生命を与えたまえ」


 私は口承で魔力を高めながら、ある一点のイメージを思い描いた。そう、それは、チェレーゼと似ている……いや、チェレーゼがこの子に似ているのだ。この子の前では「プレッシャー」など、誰も感じることはできない。それは、私の人生の中で最も愛らしく、最も……弱そうである。私は開始5秒ほど使って、そのイメージを顕現させた。


「いでよ、豆もちちゃん!」


 ワオオオン、と吠えた土人形は、本物とは比べ物にならないが、まあまあそれなりに可愛くできている。私が寂しさのあまりに編み出した創作魔法、赤ちゃんの頃の豆もちだ。そして、何匹かいる。


「……は?」

「豆もち! 実家の犬!」

「……ええっと……アンタ、人形遣い(パペッティア)? それ、天啓?」


 彼女の緊張が解け、豆もちたちに意識が行く様子が手に取るようにわかった。かわいい、と思ってくれてるかは……怪しい。それどころじゃないのはわかるが、悔しい。まあ、注意が逸れれば、なんでもいい。


 豆もちたちはふんふんと鼻を鳴らしたり、時にはガルルルと威嚇したりして、いかにも自分は攻撃しますよ、という感じを出している。これも、私が寂しさのあまり、ランダムで感情表現をしてもらっているだけだ。むしろ悲しくなるので、精度が上がっていくにつれて、家では使わなくなった。チェレーゼもそんな私を憐れみ……それも、かなり憐れんだようで、「今日はソメヤ様の心の安寧を祈って寝ます」とまで言ったものだ。


 ルースは豆もちの動向を意識して防御を高めている。破壊も試みたようだが、各自に私が高度な防御魔法をかけているとわかると、すぐに諦めた。無駄な魔力を使うわけにいかないと判断したのだろう。その判断の素早さ、的確さは、確かな実力に裏打ちされている……でも、相手が悪かったね。


 私は、目立たぬよう非物理型のキーボードでただただ長文を打っている……。ターンは残り15秒。どんな防御魔法も破壊しつつ、命は奪わないよう愛を加えた、基本魔法……『光あれ』。それにひたすらバフを加えたものを、完成まで導くために。タイピングが魔術三本の柱と言われるほど発展したのには理由があると、チェレーゼが言っていた……相手が次に何をするのか、口承や筆記と比べて、非常に読みづらい……それが強みだと。


 ルースの困惑がだんだん焦りへ変わっていくのが見える。プレッシャーが高まってしまえば、せっかく和らげてくれた豆もちの努力が報われない。残り12秒。ここまでか、と詠唱を切り上げ、私は声を張り上げた。


「さぁ、よくみて!」


 私の声につい反応し、ルースは防御姿勢のまま目を見開く。それが悪手だとも知らずに……。瞬間、私の魔法が起動する。豆もちたちは音もなくひとつに集まり、ルースの顔に覆い被さり、そして破裂する。そこには熱も何も伴わない。あるのはただ、強い強い、一点の……眩い光だけ。



「──ビッグバン」



 私が最後のバフにと口承を終えると、ルースは目を開けたまま気絶して倒れた。めくらましによく使われる『光あれ』をより強く強くした魔法……『ビッグバン』。これだけで気絶するものもいるし、しなくても、目が眩んでいる間にこっそり脳天をコツンとやれば、それで終わり。失明が怖かったのでチェレーゼに聞いたら、直接に命を奪わない限り、魔法の後遺症はほぼ魔法で治せるので問題ない。大会出場者は保険に入っている。と、お墨付きをもらった。正真正銘、安心安全、誰も殺さずに済む魔法!


 タイマーは残り10秒で一時停止し、審判が様子を確認しにいって、ダウンと試合終了を宣言した。するとドームは消え、割れんばかりの喝采が私を包み込んだ。


「なんということでしょう! みなさん、これほどまでに愛らしく、これほどまでに静かな一撃を見たことがありますか!? そう、生命と光を産み出した、神のみ技のように──ビッグバン! 伝説が今、ここで、始まりました! 勝者はソメヤ・イストゥーールッ!」

「ソーメーヤ! ソーメーヤ!」


 私は気分よくカメラに応えた。「次の大将戦も、頑張りまーす」と。

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