剣の重み
「ううっ……!」
コロネは一応防御をしていたらしいが、それを上回る光に貫かれ、目を覆って俯いた。光量も範囲も制御がうまくいかなかったので窓の外の人が心配だが、考えている暇はない。私は大慌てで<混乱>をコロネにかけ、転ばせた。精神魔法はコロネも得意だし、目が潰れても、タイピングも口承もできる。放っておいたら解除されてしまう。私は<混乱>にバフをかけてコロネの動きを阻害しつつ、ポータルから手錠を取り出した。以前、オリバーが逃げ出した時のために用意していた拘束セットの予備だ。備えあれば憂いなし。手を切るのは、一人ではできない。
「ごめん、コロネ。ことが落ち着くまで我慢して」
「はっ……お人よしね。これだけ時間が過ぎれば、クラコ殿下は変身して逃げることができるでしょう。私に残るのは罪ばかり。我慢も何も、私に残された道は、死、それしかないわ」
「そんなことない」
「はぁ?」
未だ目を瞑りながらも、強気な声だけは崩さないコロネ。私は治癒魔法をかけてやりながら、語りかける。
「そうはさせない。あなたは私が守るから」
「……わけわかんない」
「クラコ殿下は悪いけど国に帰ってもらう。でも、そこで酷い目に遭わないように嘆願する。私にできることはなんでも。約束する」
「……どうしてよ」
治癒が効いたのか、徐々にコロネの目が開く。生理的な涙が溢れ、目は充血している。やりすぎたかもしれない。念のため、あとで魔法後遺症外来に行ってもらおう。
「そうしないと、言うこと聞いてくれないでしょ?」
「……」
さて、ここからどうするか。拘束した人間を連れ回すと目立ってしまうが、すぐに拘束を解くわけにもいかない。それに、ナカネ少尉も探さなければならない。ピグトニャの隠匿魔法を教えてもらっていれば、全部簡単なのに……。私が項垂れていると、こんこん、と、ノックの音が響いた。私は内線を手に取り、ノックの主に呼びかける。
「どちらさま?」
「ソメヤ中尉でしょうか? ガネットでございます」
「ガネット! え、なんで? まあいいや、助かった。入って入って」
私が入室を促すと、ガネットは丁寧に扉を開け、鍵を閉め、一礼した。それから、拘束されているコロネを一瞥し、やや驚いた。
「ええっと……とりあえず、コロネ二等兵については後で」
「あはは……助かるよ」
私とガネットは防音魔法を使い、これからの会話がコロネに聞こえないように調整してから会話を始めた。
「ナカネ・ミーラー少尉をお探しだと、ピグトニャ様から言伝を受けました。幸い、私の目の届く場所にまだおりましたので……事情は知りませんが捕らえてあります。聞くこともありません。私は何も知りません……ですが、事実のみをお伝えすると、捕虜室3に彼女はいます」
「ありがとう……! 持つべきものは優秀な僕! ガネットがいてくれてよかったー!」
「それで、コロネ二等兵は……」
「まあざっくり言うと……予想通り、セクレタ、ナカネ、コロネの3人が仲間だったみたいなの。それでナカネを守ろうとして私と戦って、今ああなってる」
「なるほど……」
「でも、コロネはソラージルと直接のつながりはなくて……ナカネと仲のいい友人だったみたい。だから、ガネットが心配してたような……仲間を売ってソラージルへ忠誠を誓う、みたいなことは起きないと思う。メリットがないから」
「……! それは本当ですか」
私は頷く。
「だから……コロネはやっぱり、多国籍隊においてあげたい。彼女には、もう行く当てがないの」
「……しかし、ナカネと仲が良いのでしょう? ナカネが処刑になれば……やはり危険分子になるのではないですか?」
「……詳しく言えないけれど、ナカネは死刑にはならない。彼女、出身国ではかなりの要人なの。コロネは……彼女が生きて、幸せになることだけを望んでる。それを見届けるには……ここにいて、私に従うしかないと、あの子は理解してる」
「……なるほど」
ガネットは顎に手を当てて少し考え始めた。私はただ、待つ。
「……私はコロネ二等兵のことは信頼しません。しかし、我が君ソメヤ様が、そこまで仰るなら。主が何かを誤って……不幸な結果が生まれたら、そのときは私が剣になれば良いことですから」
コロネが裏切れば、自分は躊躇なく彼女を殺す……要するに、ガネットはそう言っている。私は苦笑しながら答えた。
「そうならないように努力するよ。でもそのときは……頼りにしてるね。誰より最初の僕、ガネット」
ガネットは感動した様子で目を見開いた。それから、跪き頭を下げた。そこまでしなくていい、と思ったが、ずっと苦労をかけさせているのだから……溢れ出る思いを受け止めるのも主の務めか、と、思い直した。
「仰せのままに」
それは、コロネがナカネに言っていたのと同じ言葉だ。この言葉は、私にとってはいまだに重い。のしかかるように。けれど、ナカネは当然のことだと言わんばかりだった……もちろん、王族にとっては当然なのだろうが……私は、この重みを大事にしたい。




