忠義
会議室3。呼び出したナカネ・ミーラー少尉は、手錠で繋がれたコロネを見てギョッとしてから、私の顔を見た。
「お時間いただきありがとうございます」
「い、いえ……何用ですか」
「ナカネ・ミーラー少尉……いいえ、クラコ・ラピ殿下。お話がございます」
「!?」
彼女はあからさまに動揺する。コロネと比べて、ポーカーフェイスが上手くない。
「セファッ……!」
「いいえ、この情報はコロネ二等兵から漏れたのではありません。完全なる第三国……ショドー共和国からの情報です」
「……っ」
「あなたが……自分とコロネをすり替えて、コロネを自国へ帰らせ、追っ手を完全に撒く計画……これはもう、読まれていたのです」
「……」
そんなことはないが、そういうことにする。コロネはじっと俯いている。
「そして同時に、あなたにはソラージル工作員の嫌疑もかけられています」
「……!」
「あなたはこのままでは処刑になるでしょう。そんな中、コロネをピラセ・ラピへ提供すれば、かえって御身が危険です」
「……」
「ピラセ・ラピへ帰りましょう。今回捜索チームの指揮を取るカナデ・ネガダには多少顔が効きます。国へ帰れば、最悪の事態は……死は避けられる。さあ」
ナカネは俯いた。
「……なら……」
「?」
「帰るなら死ぬっ……! あんなところで生きていても死んでいるのと同じっ……!」
「!」
そして、叫んだ。耳に突き刺さるような、悲痛な声。
「私はピラセ・ラピ象徴位のくせに、治癒のできないろくでなし……! 逆に今更、何のようで私が必要なのよ……! どうせ世継ぎ……! 政略結婚……! その手の話でしょ……!」
ラピ家のお家事情は知らないが、王族には王族の苦労があるのだろう。コロネも悲痛な面持ちをしている。ああ……だから、自分の気持ちに蓋をしてまで、セクレタとの恋を守ってやりたかったのか……そう思った。
「いとこだのはとこだの強力な魔導士だの……まるで馬のように番わせて気持ち悪いのよ……! 私は普通に生きたい……!」
「……ナカネ少尉」
気持ちはわかる。わかるが、死んでは何にもならない……そう伝えようとしたところで、彼女は形相を変え、コロネの方を睨んだ。
「セファ! あなた言ったわね、命に換えてもと!」
「……おっしゃる通りです」
「あなたのなすべきことをなさい……!」
「仰せのままに」
コロネが立ち上がる。突然のことだったから、私は彼女を拘束するための腰縄を手に持っていなかった。彼女は机を飛び越えるようにして、ナカネの元へ向かう。
「ちょっとコロネ……!」
「ソメヤ中尉」
コロネがこちらを振り向いた。
「色々と気遣ってくれて、嬉しかった……たくさんの嘘をあなたにはついてきたけど、これだけは本当」
腰縄を掴もうと私も身を乗り出すが、ナカネが短剣を私の目の前に突き出して制止した。後ろへ飛び退く。キーボードを構えるが、できれば戦いたくはなかった……こんな狭い部屋で戦ったら、きっと全部壊してしまう。それは色々と困る。戦うとして、使える魔法は……光魔法や音魔法、それから精神魔法か……。考えているうちに、コロネたちの距離は縮まっていく。
「でもね……殿下への忠義には遠く及ばない」
「よく言ったわコロネ……」
ナカネはコロネの頭を撫でた。その手つきに、私はざわざわとした胸騒ぎを覚える。私がガネットにするような、慈しみを込めたものとは違うのだ。手懐ける、支配する、そんな言葉が似合う手つき。
「あなた、ソラージルへ行きなさい」




