セファ・ルル
「えっ、待って……!」
「もう遅い……今読んでる」
「なにそれっ……前の魔法と違うわよね!? 何をしているの……!?」
「……教えてあげよっか」
固有魔法の手触りがわかるらしく、コロネは震えている。そんな彼女の手を握りながら、私はじっと彼女を見つめる。手錠に繋がれた鎖が、じゃらりと音を立てた。
「通称名コロネ・ココロ……本名はセファ・ルル。年齢は25で身長は162cm、足のサイズは24.0cm……」
「……は? なに、それ……」
「家族は無し、主人はクラコ・ラピ。彼女の影武者のひとりで、幼い頃から付き従ってきた側女でもあり……恋人の一人でもあった。得意魔法は光、音、精神、治癒……光や音は影武者として叩き込まれた変身魔法、変声魔法が生きてる形で、精神魔法はその副産物……治癒は生まれつき得意みたいだね」
「意味不明……私が今考えていないことでさえも、読めるというの?」
その通りだ。肯定の返事の代わりに、更なる情報で返す。
「クラコ・ラピ失踪から2年後……当時17歳のあなたも精神を病み失踪……というか自殺未遂。身投げをしたが……あなたは類い稀な魔法の才によって、生き残ってしまった。状況から見てあなたが死んだのは確実視されていたから……法的には死亡。紆余曲折ありピラセ・ラピ国外へ脱出、闇医者の元で大規模な美容整形を行い、可能な限り顔を変えた……」
「強大すぎる力……」
「あなたは闇ルートを通じてピラセ・ラピ国民、コロネ・ココロの戸籍に背乗りし……以後その名を名乗る様になった。国際魔法連合軍に入ったのは、私に言っていたとおりビザのため……でもそこで、あなたは運命の再会を果たした」
「……」
コロネは俯いた。
「ナカネ・ミーラー少尉……彼女の所作や立ち居振る舞い……背丈や体つき……あなたが模倣してきた全てがそこにあった……あなたの主人は生きていた」
「……」
「あなたの主人はどういうわけだかソラージルの工作員になっていた……そして、同じく工作員のセクレタ・スピオノと交際関係にあった。彼女はあなたの忠誠心と恋愛感情を利用して……自分がセクレタと生きるための計画を練り始めた」
「……」
「あなたがセクレタをかばったのは……放っておいたら彼を助けようと自爆するであろうナカネを救うため。ああでも、あなたの顔をクラコ殿下の顔だとリークしたのはあなたじゃないんだね……ということはナカネか……動機は不明だけど、十中八九身代わりにさせるためだろうね。あなたがクラコ殿下本人なのだと思わせて、自分の代わりにピラセ・ラピへ帰らせようとした」
コロネは、何かを堪えるように眉間に皺を寄せた。自分が捨て駒だったことを悟って……いや、元々悟っていたが、それに直面して……苦虫を噛み潰すように。
「ともかく、厚い忠義……それがあなたの動機。あなたの人生」
「……」
コロネはしばらく黙り込んでいたが、やがて、ゆっくりと口を開いた。
「……私は……殿下に……幸せになっていただきたかった」
「……うん」
「殿下は……我々のような下賤の者にも……人生を与えてくださるお方」
「……うん」
「だから、その命……、」
そして彼女は顔をあげる。訴えかけるように私を見つめる。
「私より先に失われてはならない……!」
そして、ポロポロと泣き出した。言いたいことがやっと言えた子どものように。
「……やっと聞き出せた。ごめんね……こんな下手なやり方しかできなくて」
「うっさい……」
「クラコ殿下を……ピラセ・ラピに返そう。せめて命だけでも繋がないと」
「……クソが……」
私はハンカチを差し出して、顔を拭いてやった。彼女は嫌がって顔を背けたが、それでも拭いた。




