マルヴォー家
「う、うちらは組織の下っ端なんで……依頼人のこと直接は知りません。マルヴォー家っつう……」
「あー……そりゃ残る二人が怯えるのもわかるな。ここで口を割らなくたって……結局消されるんじゃないのか?」
「……」
「……」
[マルヴォー家って何? ヤクザ?]と尋ねると、[概ねそんなもん]と返ってくる。3人の顔色を見るに、どうやら相当恐ろしい組織のようだ。あとで検索してみよう。ともかく、この発言を信じるならば、この3人は直接的にソラージルと通じているわけではなさそうだ。
私はこっそりと詠唱し、一番ビビっている男に<リーダビリティ>を使ってみる。どうやら、男の言っていることは嘘ではなさそうだ。そして、固有魔法の使役に気付いた様子もない。
[ステータスを読む限り……本当に、ただのヤクザの下っ端みたい。あまり強くなさそう]
[わかった。しばらく適当に尋問するから、そのファクトチェックをしてくれ]
[はーい]
ピグトニャの尋問は適切で、手慣れていた。今まで何度もしてきたことなのだろう。チェレーゼの言うことを信じるならば……彼はそれに耐えられるメンタルの持ち主では、本来はないのだろう。あとで休ませてあげないとな、なんて考えながら、指示通りファクトチェックをし続ける。得られる情報が単純であればあるほど反動は起こりにくいらしい。そのため、私は「彼はピグトニャの質問に正しく答えたか?」だけを問い続けた。YES、YES、YES──。流石に、この国最強と認識されている男、ピグトニャ・イグノジーに逆らう勇気のあるものはいないらしい。
「……ふうん。とりあえずお前らは、セクレタ奪還の命を受けてテロに来たと。で、依頼人を直接は知らないが、お前らを逮捕するための罠として現れたセクレタ本人が……"ナカネ"という名前を口にした。そうだな?」
「は、はい。そうです。小声で、『ナカネの指示か?』……と。知らんと答えましたが……。そんで、気づいたら魔法禁止区画に入っていて……」
「魔法以外の戦い方も知らんヤクザなんて、呆れたもんだな。そのままアホで居続けてもらえると助かる。さて……お前らから搾り取れる情報はこれっぽっちか?」
「ヒィッ……!」
男たちはガタガタと震え、歯をガチガチと鳴らした。
[……本当にこれぐらいしかしらなそうだよ]
[わかった]
ピグトニャは腕を組み、しばらく男たちを見つめた。見定めるような視線。
「よし。お前らの献身に感謝して、出所後の身の安全は保障しよう」
「……え?」
「マルヴォー家の下っ端ともなれば、シャバに出ても待つのは死だろ。失敗には死を……それが鉄の掟」
「……」
「ただし、お前らが俺に今後生涯にわたって忠誠を誓うなら、俺がお前らを守ってやろう。容姿を変え、戸籍を変え、新しい人生を用意してやろう」
「……本当ですか!?」
「あぁ、本当だとも。その代わり、マルヴォー家の情報は、この件に関するもの以外も全部売ってもらう。それが忠誠を誓うということだ」
男たちは目を合わせてヒソヒソと相談し始めた。どうやら、まだ自分たちに何かの決定権があると勘違いしてるらしい。
「おい……拒否権があると思ってるのか? これは命令だ。お前らは今から俺の下僕だ。いいか? 僕ではなく、下僕」
足音を立てて、男たちに近づくピグトニャ。低くまとめた三つ編みが揺れる。
「これから、お前らが少しばかり素直になる魔法をかけてやる……俺に従いたくて仕方ないって気持ちに正直になってもらう」
「ひっ……」
「ボス……!」
「お前らのボスはもうデズ・マルヴォーじゃない……ピグトニャ・イグノジーだ。その脳髄に叩き込んでやろう」
それからピグトニャは、複雑な詠唱を始めた。パッと見ているだけでは、何が何だかわからない。精神魔法系統の魔法であることは確かだが、タイピングだけでなく、口述まで混ぜ込んだ、ピグトニャにしては珍しい技巧派の魔法だ。
「服従せよ」
詠唱が終わると、男たちの震えはぴたりとおさまった。ピグトニャは近寄って拘束を解いてやるが、逃げるそぶりもない。右を向けと言えば右を向くし、座れと言えば座る。そんな操り人形のようになった彼らを見て、少し疲れたように、ふう、と息を吐いた。
「最初からこれ使えばよかったのでは?」
「複雑な条件があんだよ。これは、ざっくり言えば相手の精神状態を固定して強化するだけの魔法。こいつら自身にその気がないと、使っても意味ない。どうやら全員、素直になってくれたらしいな」
「ピグトニャ様、自分たちはどうすればよろしいので」
「大人しく刑に服してろ。また連絡する。約束は守る」
「了解しました!」
息の詰まるような監獄を出ると、外の明かりがひどく眩しかった。今なら、オリバーが必死にシャバに出たがる気持ちがわかる気がする。
「戻ったら"ナカネ"という名前の隊員を探そう。ピグイタンではあまり見ない名前だ……他国出身かもな」
「へえ。ソメヤは見るのに」
「……? 関係あるか?」
「あ、いや……どっちも日本だとファミリーネームなんだよね」
「ほー」
ピグトニャはしばらく考え、そうだ、と、何かを思い出したように口にした。
「ナカネ……どこかの国で多い名前だと思ったんだが、ピラセ・ラピ連合国でよく見る名前だ。どうやら俺たちに縁深い国らしい」




