飴と鞭
数日前、王都中央拘置所にて。
「はじめまして。シスター・アリアと申します。本日は皆様のお話を伺うために参りました」
変身魔法や<ポーカーフェイス>を使っているから涼しい顔に見えているはずだが、現実の肉体からは冷や汗が吹き出し、手も小刻みに震えているのがわかった。二度目の身分偽装、それも、今回は絶対にばれてはいけない……異界人であり、信仰をひとつも持たない私が完璧にシスターのふりをするのは、不可能に近かった。そんな私に、心強い味方が、落ち着けとテレパシーをしてくる。
「それと……補助として自分が。ご存知ないかもしれないから自己紹介をするが……あの勇者パーティの神官、ピグトニャ・イグノジーだ……。神官位は一度捨てたが、一から聖職者としてやり直すために奉仕活動に来ている」
ご存知ないかもしれないから、なんて、白々しい。ピグトニャの顔を一目見た瞬間、3人のテロリストたちが、怯えて血の気を失ったのを見ているはずなのに。
「よろしく」
「ひ、ひぃっ、」
「おいおい、たかが握手だろ。何怯えてるんだよ……爪を剥がそうってんじゃないのに」
「ひぁっ、あぁっ!」
「ピグトニャ……様、あまりいじめないで……ください」
「ふっ、ふふふっ、悪い悪い」
囚人の怯え方にも、私の慣れない敬語にも笑いが堪えきれない様子のピグトニャ。殴りたい。
「素直に答えてくれればそれで……何もしないよ。さて聞こう……誰の指示で、セクレタの解放を求めた?」
「……」
「おまえたちはセクレタの部下か?」
「……」
「ふーん……そういう態度か」
「ひっ……! ちがっ、ちがいます! うちらはバイトみたいなもんで……」
「あっお前!」
「も、もういいだろ! ピグトニャ・イグノジーまで出張ってんだ……今ここで死ぬか、ムショ出てから死ぬか、それだけの話だろ!」
どうも彼らは、素直に従わないと殺されると思っているらしい。それはそれでありがたい認識だが、本人は複雑そうだ。そこまでしない……と言いたげな顔をしている。
「し、神官様。どうか告解を……ゆ、ゆるしてください! すべてお話ししますから……」
「てめえ何一人でビビってんだよ……!」
「逆にお前ら怖くねえのかよ!?」
「まぁまぁ落ち着いて……気持ちが定まらないのであれば、まずはお一人でも構いません」
私はできるだけ優しい喋り方でそう呼びかける。私の役目は飴だ。赦しを授ける慈悲深い神官、シスター・アリア。
「ああ、そうだな……残りの二人には、あとでじっくり聞けばいいことだ。時間はたっぷりあるからな……」
そして、ピグトニャの役目は鞭である。殺しはしないが、殺す寸前まではやりそうに見える顔だ。実際に拷問をする気はないが(違法であるため)、そのように見えれば小悪党相手には十分である。




