正体
「……余計なことしてくれたわね」
「……どういう意味か、聞かせてくれる?」
「心当たりはあるってこと……逆にあなたは聞いてるの? 彼女の目的」
「勿論聞いてる……人探しだよ」
「ふーん……失踪して顔と名前を変えた要人を探してる……そんなところかしら」
「……」
コロネは組んだ脚を解き、いつもどおりの姿勢になった。表情には苛立ちが感じられ、私のことが嫌いだと、全身で伝えてくるようだった。
「私よ。私。あの人が探しているのは私……大人しく帰ろうと思ったのに。どうして余計な口を挟むのかしら」
「……そうは見えないけど」
「そんなことないわ。あなたが勝手に話を進めて、私に喋らせてくれなかっただけじゃないの」
黙って彼女の目を見つめると、気まずいのかふっと顔を斜め横にそむけて、私の視線を回避した。
「私は明日から来ない。そうしたら向こうが勝手に追いかけてくるんでしょう? 証拠もいらない」
「今からでも追いかけて、自分で言えば?」
「指紋も声も、筆跡も変えちゃったの。私が私だと証明する方法は、今や逃亡しかない」
「嘘でしょ。あなたは別人だから、証拠を取られたら困るんだ……身代わりになってあげられなくなるから」
「何を……」
コロネは改めてこちらを向く。そうは見えないといったのは……あなたがクラコ・ラピ殿下本人には見えない、そういう意味だ。あなたに帰る意思がないという意味ではない。
「どうしてそう、いつも自分を犠牲にするの? 教えて……コロネ、あなた本当は誰なの?」
コロネは黙り込んだ。ただ、私を睨みつけてくるその双眸だけが、彼女の心を読む鍵となる。
「まあ、誰だとしても私の部下……私はあなたを守らなきゃならない。あなたが本人で、自分の意思で帰るなら私は止めない。でも、誰かの身代わりで帰るのはいけない。それに、あなたがソラージルの工作員であるという疑いがある以上……国際的な観点からしても、あなたをここから易々と出すわけにいかない」
「……」
「カナデが軍上層部に事情を全部話せば、あなたは連れ去られるか、死刑になるかどちらか。少なくとも、ここで囲い込むことはできなくなる。多分しばらくは言わない……あの人はもっと遊びたがってる。その間に手を考えないと……」
コロネは苛々と貧乏ゆすりなんかをしていたが、しばらく私が語っていると、それに合わせて瞼がわずかに落ちて、長いまつ毛が揺れて、瞳に燃えていた怒りも沈んでいった。後にはただ、困惑が残っていた。
「どうして、そんなに私のことを気にするの? どうでもいいじゃない……放っておけばいい」
「私が勇者になるためだよ。部下をほったらかしにする勇者、いないでしょ」
「……前の勇者様は、割と冷酷だったらしいわよ。民衆には優しいけれど、部下や僕には厳しいってもっぱらの噂」
私は、ユーシャの分霊と初めて会った時のことを思い出した。すぐにこちらを敵認定し、僕を差し向けてくる、擦り切れた野犬のような彼の魂を。
「ふふ……ユーシャ・リリヴェージュは半人前だったってことだ」
「よく言えるわね……今生きる人は皆、彼に命を救ってもらったのに。彼がいなければ、神は死に絶え、世界はいまだ混乱の最中だった。ちがう?」
「さあ……人間性についての評価と恩は別だから」
実際、メヒェリエの歴史をよく知らないので答えられない。勇者パーティが魔王を倒したことで世界がどう救われたのかも、魔王がどれほど強大だったのかも、なにをしようとしていたのかも、私はよく知らない。
「あなた……何か隠し事してるわよね」
「……!」
「私の秘密を暴きたいなら、まず自分から……そう思わない?」
鋭い。しかし、流石にそこまでは……私が異界人であるとまでは、打ち明けられない。
「悪いけど……私には秘密なんてないから、対価は与えられない。でも聞かせてもらう……あなたは誰?」
「……ピラセ・ラピ連合国第4位象徴位継承者……シシリー・ラピ第二皇妃が娘、クラコ・ラピ。知ってるでしょ」
「……」
私は黙っている。すると、コロネがなぜだか困惑し始める。
「なによその顔……」
私は固唾を飲み、深呼吸をした。
「ごめんコロネ……それ以上嘘をつかれると……実力行使しかない」
「……戦うつもり? 一応言っておくけど……合意なき決闘は暴行罪よ。私が嘘をつく動機なんかない! 放っておいてよ!」
「動機ならわかっている……」
そうだ、もう調べはついている。コロネはクラコ・ラピではない。コロネは……。
「あなたが本当のクラコ・ラピの僕なら……そのぐらいのことはする」




