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接待レスバ

「……失礼します」

「どうぞ」


 ごく一般的な会議室。その場所の選定に、魔法を使われてもコロネがある程度身を守れるように……という意図があることを、カナデはきっと見抜いているだろう。それでも構わない。とはいえ緊張する……私は意味もなく資料を机に叩きつけ、角を揃えた。


「コロネ、こちらはショドー共和国からいらした、カナデ・ネガダ様。カナデ様、こちらがコロネ・ココロ二等兵です」

「どうも。はじめまして……いや、久しぶり? どっちかなぁ」

「……はじめまして、カナデ様。こんな一兵卒のために、遠路はるばる……どの様なご用件でしょうか?」


 コロネはいつもよりぎこちない動きで椅子に座り、ゆっくりと足を組んだ。私は驚いた……普段彼女が足を組むことはない。少なくとも、私は見たことがない。


「んー……なんと言えばいいのかな。なかなか難しいね……」

「はぁ……」

「コロネ、心当たりない? 今日の集まりに」

「……なんですか、二人して意味深な言い方して……」


 心臓が高鳴る。コロネの表情も、カナデの表情も読めない。ただわかるのは、私の脳髄から響き渡る警戒アラート……第六感、悪い予感、そればかり。


「……覚えがないそうですよ、カナデ様。十分でしょう、お引き取りください」

「ちょっとソメヤ氏、そりゃないよ。いくら部下が可愛いからって。本来なら今日だって、訓練を見学させてもらう予定だったんだ……それを、君が同席したいというから、こうして面会の形に変えた。十分譲歩しただろう?」

「そう言いながら、ウキウキしてるじゃありませんか。どうやって解決してやろうって」


 肌着がじっとりと汗ではりつく。寒くないのに冷えていく。脳みそに血液と魔力が回って、急速に循環していくのがわかる。


「ひと目見ればわかると豪語していたのに、決定的な証拠をまだあなたは欠いている……だから踏み込めないんだ。踏み込めば守秘義務を犯すことになる……関係者の私はまだしも、本来関係なかった人間にまで……それは流石のあなたでもできない。そうでしょう?」


 私は毛穴まで痙攣しているが、カナデは涼しい顔のままだ。


「だとしたら、何かな?」

「私を含め、誰が見ても納得できる証拠、確信……それを見せてください。でなければ私は、彼女の出国を認めません」

「ふふ、君が頑張っても上にかけあうだけだよ」

「それでも認めません。なにがなんでも……私の持てる力全てを使うことになっても、です。例えば、ですが……あなたの言うことがすべて嘘で、善良な国民を拉致するのが目的だったとしたら? そうなれば、私は悔やんでも悔やみきれません」

「ちょ、ちょっと。なんの話……」


 コロネは戸惑ったように声を出しつつ、なにやら手を動かしたり、声色が変わったり、いつもと違う彼女になっていった。焦ると手癖が増えるのか……そう思ったけれど、どちらかといえばそれは、何かのアピールのように見えた。わざとらしい、何か……。


「具体的に、何を出したら認めてくれるんだい?」

「それこそ、あなたが考えるべきなのでは? ごく普通の話……客観的に、誰が見ても、100人中100人が納得するような証拠を出していただきたい」

「無茶言うね……それが難しいから、付き合いの長い私のカンに頼ろう、って話だったのに」

「それでは、お引き取りください。先ほど言ったとおり、あなたの意図が読めない以上……大事な部下を易々と引き渡すわけにはいきません」

「待ってよ! 本人を置いてけぼりにしないでちょうだい!」


 まただ。喋り方の癖が少し変わっている。エデンの言語を通しているからわかりにくいが……おそらく、原語ならばもっと変わっているのだろう。


 何かがおかしい。


「渡さないと言ってるんじゃないんです。決定的な証拠が欲しいと言っているだけ……このまま、やれ仕草がどうの、姿勢がどうのと難癖をつけられて、そのまま連れ去られたらたまらないって話です。まだ何日かおられるんでしょう? 今日はひとまず顔合わせということで」

「そりゃあね。にしても解せないな、決定的な証拠が欲しいというなら……それこそ、指紋や声紋、筆跡までも、白日に晒してもらうだけさ。庇ったって結果は変わらない」

「カナデ様、わたくしのお話を……」

「なら私の提案を飲まない理由もありませんよね?」


 私は焦る。とにかく、今日は帰ってもらいたい。私の感じてる違和がなんであるにせよ……確かめてからでないと、動けない。


「ああ、こうして話をすることで……クロなら、この会話で察して……彼女は自ら逃亡する。シロならここに居座り続け、晴れて別人と証明される。どちらにしても、彼女の望む人生に行くわけだ。それを狙っているんだね?」

「さぁ、どうでしょうか……」

「まあいいよ。面白いじゃないか。逃げたところで無駄さ……それにしても、あまり私の神経を逆撫でするのは推奨しないよ?」

「逆ですよ、逆。これは接待です。いわば、エクストラステージのご提供です」


 それを受けたカナデは笑いだし、しばらく止まらなかった。


「ふふ……そうか、私の趣味についてチェレーゼに聞いたんだね? あはは……じゃあ、乗ってあげよう。ギブアップって言ったら手を緩めておくれ」

「さあ……それは保証しかねますが。ともかく、同意していただいたなら、本日はお引き取りを」

「いいよいいよ。今日は帰る。君を納得させられる様に、次は全力を尽くそう。逃げたら逃げたで……証拠の提出なんて面倒なことをしなくて済むんだ。それこそが自白だもの。追いかけて、キュッ、て捕まえるさ」

「待ってくださいまし、カナデ様! こういったことは本人の話を……」

「お疲れ様でした。外に迎えのものを控えさせてますので。それでは、また」


 私はほとんど押し出すようにカナデを外に追い出し、ドアを閉めて内側から施錠した。チェレーゼにはきっと迷惑がかかるだろうが、仕方ない。カナデがこの状況を面白がってくれていることを望むしかない。


「コロネ……今の話、心当たりあるでしょ? 正直に……話して欲しい」

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