マッチポンパー
「なんでもったいぶったんですか……!」
「部下だから。私が守ってあげなきゃ」
「そうですが……! 扱いに困っていたじゃありませんか。帰ってくれたら都合いいですよ。殺されずにすみますし」
「……でも、コロネがどう思うかわからないじゃん」
私の不満げな声色に、チェレーゼは頭を抱える。子どもじゃないんですから、という彼女に、私はやはり子どものように抗弁する。
「勇者なんでしょ? 私。だったら……コロネも助けなきゃ。多国籍軍のひとりなんだから。私が飼うって、決めたから」
「……はぁ〜……変なとこ頑固なんですから……」
「とは言っても……チェレーゼはカナデさんとの今までの関係もあるし……それこそ外交問題になるかもだし、止めてくれていいよ。カナデさんのことは信用してないけど……チェレーゼのことは信用してるから、助言も聞き入れる」
その発言に、チェレーゼは驚いたような顔をした。「友達でしょ?」と言うと、「そうですが……」と呟く。そうして、しばらく考え込んだ後、ため息を吐いてから、「まあ大丈夫でしょう」、と返事が来た。
「……外交問題とカナデ様は言ってますが、脅しですよ。少なくとも、すぐに問題にはできません。ピラセ・ラピからしたら、クラコ殿下の失踪は隠したい情報ですし、あの小さな国が、強国であるショドーやピグイタンに刃を向けることはできません」
「ふーん……でもさ、別に黙ってやればよかったのにね。クエストなんて形にしなくても、軍上層部とだけやりとりすればいいじゃん」
チェレーゼは私の疑問に、こくこくと頷いた。そして、大変に疲労した、という顔で回答した。
「……カナデ様は……少し変わっていらして。政争に爆弾を投げ入れて遊ぶことがあるんです」
「え?」
「あのお方は優秀ですし、地位も財もあります……多分、生きているのがつまらないんでしょう。だから、大きな政治的問題に首を突っ込んでは、あえて場を引っ掻き回して、その上でクリアすることを愉しむ……なんてことをしばしばやるんです。マッチポンパーです」
「ええ……」
お偉い様の考えることはわからない。道楽のために人を巻き込みすぎである。クラコ殿下も、暇すぎて人を巻き込んで家出したんだろうか。
「もっとスマートなやり方はいくらでもあるんです……実際、こうして思ったより部下想いなソメヤ様のために揉めているわけですし。でも……それすら、あの人の手の上かもしれません。予測不能な因子をたくさんぶち込んで、その上で予測しきって解決……それがあの人のスタイルです」
「すごい……」
正直引いている。優秀だからなんとかなるだけで、迷惑なことこの上なしである。今後、何かあってもこの人にだけは頼らないようにしよう。
「ですから……まあ……良心に従い、最も良い道を模索します。コロネさんがクラコ殿下としての生き方を受け入れ、円満に帰る、というルートが、現状最も良いと考えられます」
「なるほど」
「ソメヤ様もそこを目指してくださるなら、うれしいのですが……」
「……わかった。わかったよ。チェレーゼの助言なら……できるだけ、そうする」
私の言葉に、チェレーゼは安心したようにため息をつき、姿勢を崩した。
「ああ、あと……神官服が必要であれば、予備が衣装室にありますから、それを持っていってください」
「……! ありがとう!」
「気をつけてくださいね。逮捕された人を釈放させる強権までは持っていませんから」
「気をつける気をつける! サンキュー!」




