大事な部下
「え、うちに?」
「そう。それも……思い出したけど、君ってあの勇者だろう? <勇者:ソメヤ・イストゥール>。緩衝地帯でのソラージルとの交戦で、現地民や自兵だけでなく、敵兵までも救い、血を流さずに済ませたとか」
「え、ええ……それが?」
「関係大アリなんだよ。ちょっと聞きたまえ」
カナデは意味ありげに微笑んで、写真をとんとんと人差し指で叩いた。
「国際魔法連合軍、多国籍隊リズ班所属の二等兵……コロネ・ココロに、クラコ殿下の第二の顔だという嫌疑がかかってる。と言っても、魔法による見せかけではなく物理的に造られた、もう不可逆な変化だけど」
「……はい!?」
「そんなに驚くことかい?」
「そりゃ驚きます! 直属の部下ですから」
カナデはへらへらと笑っているが、こちらからしたらありえない出来事だ。本当だとしたら状況が複雑すぎる。整形してまでお忍びで国を出ているだけでも意味がわからないのに、ソラージルの工作員までして、その結果としてピグイタンに来ている。巻き込む範囲が大きすぎる。
「そもそも、どうしてコロネがクラコ殿下だとわかるんですか!? 全然顔違うし……」
「簡単だよ。彼女、とある闇医者を使って顔を変えたんだが……最近になって、自分の執刀したのがクラコ殿下だと気づいた闇医者が、向こうから近寄って情報を売ってきた。金に困っていたのか、相当高くついたがね……」
カナデは語りながら、もう一枚写真を取り出す。それはカルテの記録で、正面、横顔と三枚の写真が横一列に並んでいて、確かに見覚えのある顔……コロネ・ココロその人だった。私が吸い込まれるようにそれらを眺めている間、カナデはまたタバコのようなものを持ち出して吸おうとしはじめ、チェレーゼに止められた。カナデは渋々といった様子でタバコをしまい、口寂しいのかお茶を追加した。
「ま、全部ラピ家が払い、そのあと締め上げて倍額を返してもらってたから問題ない。バカなやつだ。ひとりで国家と戦って、勝てるわけなかろうに。もう少し賢けりゃ、あんな色気は出してくれなかった。本当に、バカで助かったよ」
裏社会も大変なんだなあ。
「それで第二の顔の方を調査したところ、ピグイタンで目撃情報が入ってね……とりあえずチェレーゼたちに人探しを依頼したら、その第二の顔と直接の関わりがあって……かつ……信頼できる人がいる、というからね。こうして会いに来たのさ」
「勝手にごめんなさい、ソメヤ様。でも、きっと協力してくれますね?」
チェレーゼにじいっと見つめられると、喉が詰まったように固まってしまう。この期待には応えなければならない。それ以外の選択肢は存在しない。
「とはいえ、まだ彼女がクラコ殿下だと確証があるわけじゃない。私たちがデマをつかまされた可能性は残るからね。でも、私はクラコ殿下をよく知っている。ひと目見れば、所作や姿勢で、本物かどうかわかる」
カナデは意味深な微笑みを浮かべ、私と目を合わせた。
「本人と会わせてくれるかな」
私は深呼吸をし、少し考えてから答える。
「面会は構いませんが、私も同席します。それ以上のことは、本人の許諾を得てください。私の前で」
「ちょっと、ソメヤ様……!」
チェレーゼは私を揺さぶり、テーブルの上の茶器が軽く音を立てた。私は揺るがない。その様子に、カナデは声を上げて笑い出した。
「随分大事な部下なんだね」
「他の部下でもこうしました」
「そう。面会に上司たる君が同席するのは承知した……ただし、彼女がクラコ殿下ご本人だと確認できれば、合意なんてしょっぱいこと言わないで、私は容赦なく連れ帰る。それを邪魔するのは外交問題になると、心得ておいてくれたまえ」
「……本人の意思は?」
「関係ない。それが王……あぁ、象徴というものだからね。とはいえ……私も、象徴位ほどじゃないにせよ、高位の貴族に生まれた者として……高みに在らねばならない……その苦悩が少しはわかるつもりさ。この長い家出に関して、彼女があんまり怒られないよう、手を回すぐらいのことはするよ」
「……そうですか。わかりました」
さて、とカナデは立ち上がり、荷物をまとめ始めた。
「邪魔したね。ギルドには、ソメヤ氏の参加を報告しておく。チェレーゼ君、お茶をありがとう」
「い、いえ! おもたせですから……すみません……」
私たちも一拍遅れて立ち上がり、彼女を玄関まで見送る。
「他の仕事もあるから……3日後の午後に時間もらえると助かるかな。急ですまないね」
「いえ……場を用意しておきます」
「ありがとう。それじゃ、また」
カナデはひらひらと薄い手を振った。私とチェレーゼは、彼女の背中が見えなくなるまで頭を下げ続けた。




