『家族』
「で、明日から刑務所生活なんだっけ」
「まだ決まってねえよ!」
「ほぼ確実だろ……」
1週間後。急病(ヴェーラの乗っ取り)やらなんやらで遅れていたオリバーの裁判が明日に決まったということで、大神官殿に呼ばれた。裁判で実刑が確定すれば、その足で拘置所に行くことになり、数日後には刑務所だという。
「私が被害届を取り下げた罪以外については、元々争う姿勢を見せていませんでしたから。この1回で決まるでしょう」
「鍵屋での身分詐称は?」
「……少々無理筋ですが、やっぱり私が合鍵を買ってた、ってことにしました。別に金銭被害は出てないので、これで済みました」
「ピグイタンの刑法、結構雑……?」
新しい国ですからね、とチェレーゼは答える。それで言い訳になるんだろうか。
「というわけで、俺様としばらく会えないみんなが寂しがるだろうから、シャバの空気を吸い切ろうパーティーを開くことにしたわけ!」
「ちなみにお金は私持ちです。とほほ……」
「な、なぜ……?」
チェレーゼとオリバーは目を合わせ、何やら意味ありげに笑う。
「賠償金です」
よくわからないが、この二人の関係も、なぜかよくなっているらしい。私とピグトニャは首を傾げつつ、まぁよかったね、などと語り合う。
「ピザうめえ!」
「安い賠償金だな……」
「ピザは高えよ! ムショではピザ味のお菓子がシャバの5倍すんだから」
「かわいそう……」
もぐもぐとピザを食べすすめ、お菓子を食べ、ジュースを飲み、自由気ままに過ごすオリバー。そのうち私たちも楽しくなってきて、みんなでタイピング対戦をしたり、ギターやピアノを弾いたり、3人が讃美歌を歌い始めて全くついていけなくなったりした。仕返しにと思い、こちらも地球の曲を弾く。実は昔、3年間だけピアノをやっていた。教室が嫌で辞めてしまったが、タイピングとの相性がいい説をネットでたまに見かけるので、続ければよかったと若干後悔している。
「あー楽しい……そうだ! ねえ俺のスマホとって!」
「はいはい」
私物は完全にピグトニャ管理である。彼はソファの凹みに上手いことスマホを置き、私たちに寄って寄ってと指示した。
「やべ、タイマー10秒にしちゃった」
「長くないか?」
「ソメヤ様、"7"のポーズです、"7"」
「そうだ! えっと……こうね!」
その後も何枚か写真を撮った。集合写真もそうだが、ギターを弾いてるオリバーを撮ったり(彼のギターは結構上手い)、ピグトニャとオリバーがなぜか腕相撲している様子を撮ったり、逆に私とチェレーゼが撮られたり、何気ない一コマを、たくさん。
「……あのさ、マジで空気読めないっていうか、頭おかしいこと言うんだけど」
「いまさら?」
「ソメヤちゃん辛辣!」
はぁーっとため息を吐き、何やら緊張した面持ちのオリバー。そんな様子を見てたら、私たちも緊張してしまう。
「……ヴェーラの姿に変身してもいい?」
「!?」
全員驚くが、同時に、憐れみも覚えた。私とピグトニャは尚更だ。彼が仲間と撮る写真には、しばしばヴェーラの姿に変身したオリバーが写っていた。思い出さずにはいられなかった。
「……鍵、まだあったっけ」
「あ、あるよ。私が持ってる」
「……開けてやれ」
ピグトニャが言うので、私は従った。ヴェーラの姿なんて見たくもない……その感情は変わらない。けれど、そのオリジナルであるピグトニャが、許すなら……私も許さなければならない。
「……ありがと」
そういうと彼は、瞬時に、服ごとヴェーラの姿へ切り替わった。変身魔法を齧ってから見ると、彼のそれは、かなり鮮やかで高度だとわかる。じっと目を凝らしても一つの破綻もなく、しかも服もそれなりに複雑で、触った感覚さえもある。
「じゃあ撮ろうぜ! ヴェーラが盛れる角度はここだから……ソメヤちゃんそこ、チェレーゼ後ろ、ピグトニャはその横ね」
「細か!」
「いくぜ〜」
シャッター音が何回か響く。一番可愛い写りのものを厳選するのだという。
「写真撮るなって言う割に、撮ったら撮ったでなんだかんだしっかり見るし、文句つけてきてさぁ……この写真にしろ、この角度はセンスない、とか……」
「言いそうです」
チェレーゼと彼は二人で笑い合う。そうか、彼らは……ヴェーラへの愛情を、共有しているんだ。彼女を失った痛みを乗り越える同志なんだ。チェレーゼに<敗北者は幸い>を使わなくてよかった。その様子を眺めていると、ついお人好しが発動して、余計な提案をしたくなる。
「あのさ、よかったら……」
その日最後の写真は、チェレーゼ、ピグトニャ、オリバー、そして……ヴェーラの第二の姿が写ったものとなった。『全然違う! 下手くそかァ!?』などと文句を言われつつ、何度もリテイクを繰り返した末、『んー……よし、及第点!』と言われたのがこのヴェーラの顔……私が変身した姿だ。
「写真みんな送ってくれた? 今送って今、明日にはムショだから」
「もう送ったよ、オリバーのもちゃんときてる」
「よっしゃ、一旦全部アルバムに入れちゃお。このスマホさァ、ピグトニャに預けていい?」
「……ああ、俺が預かるよ。データもバックアップしといてやる」
「よかったァ〜、家族ってありがてえな」
「現金なやつ……」
そうして彼は写真アプリをいじる。今日の写真をすべて選択し、少し悩んだ様子を見せたが、結局、『仲間』に入れた。そしてそのあと、アルバムの名前を編集し始めた。
「よし」
アルバムの名前は『家族』になった。私たち3人は目を見合わせる。
「あいつらも……家族みてえなもんだったし。ソメヤちゃんは準家族ってことで」
「なんじゃそりゃ」
「嫌?」
「なわけないでしょ! 嬉しいよ。ありがとね」
オリバーは、まだ10代半ばの少年かのような顔で、照れくさそうに笑った。
「オリバー……」
「何? チェレーゼも俺に家族って言われんの嫌!?」
「い、いえ。逆です。その……」
ここまで不安そうなチェレーゼは珍しい。オリバーの前ではどうも、振る舞いを図りかねているように見える。
「私にそんな権利が、あるんでしょうか……」
オリバーはため息をついて、呆れ果てたように肩パンをした。チェレーゼは結構嫌そうな顔をする。ヤンキーのコミュニケーションだもんな。
「賠償金もらったから入れてやるよ! てかどんなに嫌なヤツでも家族は家族だろ!? あのクソジジイも」
「せめて名前で呼んであげてください……」
「ヤダ!」
私はそこで、ピグトニャとオリバーが二人で唱えていた、祈りの言葉を思い出す。
「そういえばさ、ひとつの家族に……って祈り、あったよね」
「ああ……聖セレンゼの祈りですね。さっき讃美歌バージョンを歌ってましたよ」
「えっ、そうなの? そういえば、歌ってエデンの言語効かない?」
「読み取ろうと思えば読み取れますよ。ただ、普通にしてたら翻訳されませんね。軍隊や秘密警察が、歌で通信する例もあります」
「へ〜」
「気に入ってんならもっかい歌う? ピグトニャ、ピアノ」
「はいはい。弾いてやるよ」
そうして男ふたりがセッションを始め、チェレーゼも加わって3人が歌いはじめた。意識してみると、今度は歌詞の内容もなんとなく伝わる。
──わたしたち罪人を慈しみ、わたしたちが互いに愛し合い、ひとつの家族となれるよう、神にお取り次ぎください。
歌い終わると、チェレーゼがこちらへ微笑んで話しかけてきた。
「ソメヤ様のおかげで、ひとつの家族になれた気がします。やっと。やはりあなたは、聖セレンゼです」
こうして、オリバーのシャバ満喫パーティーは幕を閉じ、私のスマホの中にも、新たに『家族』というアルバムができた。嬉しいと同時に、本物の家族のことが、ふっと頭をよぎる。『準家族』に直すか悩んだが、やっぱり『家族』の方がしっくりきて、そのことが私を悩ませた。こんな風に、いつまでも誤魔化せはしない。いつかは考えなければならない。いずれ地球に帰るのか……それともこの星に、生きるのか。




