第一位の実力者
オリバーがピグトニャに殴られた数分後。チェレーゼはやっと唇を開いた。
「……ごめんなさい、オリバー。私があなたを見誤っていたようです」
「……テメェみたいなクソゴミムシにも、謝るって文化あるんだな」
「ありますよ。そして、それなりに本気です」
「口でならなんとでも言えるだろうが……」
チェレーゼは目を閉じた。
「……おっしゃるとおりです。行動で示せない誠意に、言の葉以上の意味はありません」
「……姉さん、こいつに誠意見せる必要ある?」
「まあないですが……」
「あれよ!」
オリバーの叫びはコミカルだが、空気は重い。なんだか、悪い予感がする。
「ないですが、見せましょう。オリバー、あなた、ヴェーラのために来たんでしょう? ヴェーラと話をさせてあげます」
「は!?」
声を上げたのは、オリバーだけでなく、私とピグトニャもであった。何を考えているのか、と言わんばかりの私たちに、チェレーゼは微笑む。
「大丈夫ですよ。ヴェーラが天啓で私に乗り移ったところで……効果は長く見積もって、15分程度。なにもできやしません。私を散々攻撃してくれたおかげで、私の残存魔力は今、かなり少ないんです。そして、ヴェーラの天啓は、天啓とはいえ魔法ですから……相当な魔力を浪費するはず。そして魔力を使い切れば、待つのは死。私は天啓が天啓ですからね……魔力計算は、得意なんです」
驚いた。それは、オリバーから聞いた天啓の特徴と全く同じ……真実だったからである。
「現に、私がこのことに気づいた瞬間……彼女もそれを読み取って、私への攻撃を控えるようになりました。ですが勿論、私は警戒を怠らず、あえて低魔力を維持しています。ヴェーラって、私の知ってることを知ってるってだけで、頭は良くないんですよ」
「……でも、想定通りにいかなかったら……」
私の心配を汲み取ったチェレーゼは、自身ありげな顔で笑って見せる。
「ソメヤ様、大丈夫。天啓学は守備範囲内……私は、信仰科学者です」
私は思い出す。そういえば、目の前のこの女性は、科学者であったということを。異界から私を召喚するほどの科学力を持つチームのリーダーで、エデンの言語の研究者。称号もたくさん持っていて、その知識は広く深い。何より……。
『彼はピグトニャ・イグノジー。速さはS1なのですが……この国第二位の実力者です』
今思うと、ピグトニャに初めて出会ったときの、あの紹介はおかしいのだ。だってピグトニャはプロ番付1位、ユーシャなき今、ピグイタン最強の男であるはずだから。ユーシャを含めて……とも考えられるが、数ヶ月を共にした今では、チェレーゼはそんなナイーブな性格ではないと断言できる。
『……あなたは……チェレーゼさんは強いの?』
『少なくとも、この部屋の中では一番。ですが、あなたがいずれ一番になるでしょう』
あのときは召喚されたばかりで知らなかったが、ピグトニャもプロジェクトメンバーである以上……あの部屋に、いたはずなのだ。つまり彼女は、ピグトニャを第二位と呼んだとき、言外にこう言っていた──
──この国第一位の実力者は、自分。
戦っていたのだ、彼女は。たったひとりでも。頭の中での殺し合い以外にも……様々な方法で、戦い続けていたのだ。この国第一位の、実力者として。
「でも、姉さん……」
「いや、ピグトニャ。チェレーゼを信じよう」
[これは中々ない、ヴェーラを直接観測するチャンスなんだから]
私のテレパシーで、ピグトニャは折れた。あとは信じるしかない……勝つのは私たちだ、と。チェレーゼはどこともつかない場所を軽く見上げて、語りかける。
「ヴェーラ……あなたの可愛いオリバーが来ていますよ。出てこなくても構いませんが……オリバーはどう思うでしょうね? あなたがここで出てこないなら……私はあなたごと、昏睡させてもらいます」




