ハイタッチ
「オリバーが姉さんの面会に行く件だけど、まずは俺が説明してくる。が、その前に、ここでこの面会の意義を整理したい」
すっかり会議室のようになったオリバーの部屋に、私たち3人は集まり、各々の好きな飲み物を飲んでだらけた姿勢で話を聞いた。
「元々、オリバーとの交渉が詰まってるから出てきた奇策だったと思ってたけど……」
「あのときはな。でも考えたんだ。これは未曾有のチャンスかもしれないと」
「それ俺にとっても良い話?」
ピグトニャは力強く頷く。
「オリバー……おまえは、ヴェーラが姉さんと心中するより、お前の頭の中でも、人形の中でも、どこでもいいからヴェーラに外に出て、できれば一生そこにいてほしいよな?」
「う、うん」
「一方の俺たちは、姉さんからヴェーラを引き剥がしたい。そして、できれば二度と戻したくはない」
「うん」
オリバーの問いかけには本人が、私たちの主張には私が、それぞれ頷いて答える。
「今のオリバーの状態なら、それが可能かもしれない……その、ブレスレットがあれば」
「これ?」
なんの変哲もない、少し太いバンドのようにしか見えないそれは、オリバーの魔力素子を抑え込んでいる。故にオリバーは何もできない。体内の魔力素子に干渉できなければ、大概の魔力素子にも干渉はできず、ただ自然の流れに巻き込まれるだけである。
「ヴェーラの天啓を聞いてぴんときた。乗っ取りの時間制限……天啓行使の不自由さ……この天啓の魔力供給源は、対象の肉体。ここまではみんなわかってると思う」
「わかってっけど、すると、どうなんの?」
「魔力素子拘束具というのは……それを身につけた人間の、魔力素子の動きを抑える命令式を備えた魔道具……至ってシンプル。外部からの流入や操作は阻止できないから、外からの魔法は効く。つまり、ヴェーラがこのオリバーの中に入ることはおそらく可能……だが、その後のヴェーラの行動が、オリバーの体内魔力に依存してるとすれば……」
オリバーはしばらく考えてから、やっとピンときたようで、ああ〜! と声を上げた。
「そっか、俺から出られなくなるのか! あったまい〜!」
「あくまで可能性だ。だが、そうなればかなり嬉しい。そうでなくても、少しの間でもオリバーに取り憑いてくれれば……姉さんが休める」
「チェレーゼはどうでもいいけど……とりあえず、ヴェーラも安全になるってことだもんな……。話し合いは頭の中でもできるし!」
オリバーは身を乗り出し、ピグトニャに片手を示した。ピグトニャもニヤリと笑って手を差し出す。ぱんっ、と、手と手が弾ける音が聞こえた。
「乗った!」
「そうこなくっちゃな」
ハイタッチの余韻がしばらく響いている。男兄弟で手を組んで悪巧み……という雰囲気が微笑ましい。オリバーは肩の荷が降りたようで、面会いつにすんの? 早くヴェーラに会いたいなぁ、とか、そんなことを言っている。
でも……そんなに上手くいくだろうか? この空気に水を差すこともできないし、後でピグトニャと話さなきゃ……。そう考えていたら、オリバーと話しながら笑っているピグトニャが、こちらに視線をよこしさえせずにテレパシーを送ってきた。よかった、彼はちゃんと考えているらしい。
[オリバーに言えない話をしよう]




