『仲間』
「ほらみて! 可愛くねえ? まあ俺だけど……」
どれどれと覗き込むと、赤毛で前髪をバッサリ切り揃えた、気の強そうな顔の女性が、路地裏で自撮りしていた。そして、確かに盛れていた。この赤毛がオリバー……つまり、ヴェーラの第二の顔だろう。
「可愛いね。チェレーゼとは結構雰囲気違うんだ」
「中身バレ避けてえからなぁ」
「外見バレじゃないか?」
そんなくだらない会話をしつつ、アルバムを眺める。みんな楽しそうで……ヴェーラにとってどうかはわからないが、少なくともオリバーにとっては、大切な居場所なのだろう。アルバム名も『仲間』だし。
私は『仲間』に入っている複数の写真を参考に、ヴェーラに変身してみた。どう? と聞くまでもなく、オリバーからダメ出しが飛んでくる。
「だぁーっ全然ダメ! まつ毛はもっと長い! 鼻はもう少し高くて髪の生え際はもう少し下、涙袋は逆にデカすぎ、あれはメイクで足してて……」
「こ、細か!」
「錬金術で器を作るんだよな!? そのときは絶対に俺に監督させろよ!? 中途半端なの作ったら……てか、まともに機能する、何不自由ない、五体満足かつ原典に忠実で可愛い体を用意しないと俺……」
私にダメ出しをするために非常に近くなっていた顔が、もっと近づいてくる。
「ソメヤちゃんのこと、殺すから」
喉奥から変な音が出た。そこには本物の殺意があった。今の彼は魔法が使えないが……関係ない。たとえ腕も脚も失おうと、お前を殺す……そんな気迫があった。
「……ヴェーラのこと、相当大事なんだね」
「そりゃな! おまえらと仲直りしたのもヴェーラのため! なぁ……本当にこれでいいんだよな? ……俺さぁ、一度、振られてんだよ。危ないから俺の頭の中にいてって言ったのに、ヴェーラは行っちゃった……チェレーゼの体がどうしても必要だって。でもそれって、さぁ、体が……肉体が必要なんだよな? 自由に動く体が……自分の体が……だから、それをソメヤちゃんが用意すれば……ヴェーラはこっち来て、くれるよな?」
オリバーの体は私の眼前で震え出す。彼でさえ、ヴェーラの目的の詳細は知らないのだ……その落胆を気取られないよう、私はそっとオリバーを押し返し、元の椅子に座らせた。
「行っちゃったって、いつのこと?」
「……魔王退治……。チェレーゼに任せて、俺の頭の中で暮らして……戻ってきてからまた帰ればいいって俺は言ったんだ。でも、万が一向こうで死なれたら、ヴェーラは肉体を手に入れる術がなくなるからって……それは、どっちにしたって同じじゃんかって……思ったんだけど、俺そのときマジでガキだったし、説得できなかった。ピグトニャを襲ったのは……ピグトニャが怪我すれば……なんなら死んだら……魔王退治自体無くなると思って……」
ヴェーラは、安全なオリバーの脳内に住むよりも、ユーシャと共に行く危険地帯を選んだのだろう。万が一があったとき、ユーシャのいない地で平穏に過ごすより、チェレーゼと共に死ぬことを選んだのだろう。でもそのユーシャはヴェーラではなくチェレーゼが好きで、だからヴェーラはチェレーゼの体に執着があって……そんなことは、今のオリバーには話せない。人の心のままならなさに、胸の奥が重くなってゆく。
「……あれは、おまえの意思だったのか」
「……チェレーゼがその日の夕方までいないのも……中庭で待ち合わせしてるのも……俺は知ってた。というか、チェレーゼが朝いない日って、いつもそうしてたろ。俺はそれを見てただけ。そこで持ってくんのがカッターナイフってのがまたガキだけどよお……必死だったんだよ。あのときの俺は、ヴェーラとピグトニャの命を天秤にかけた。ヴェーラが勝った。今もそうだ」
オリバーは凹みきり、スナック菓子を食べる手も止まっている。その頭を、ピグトニャが、ぽんと叩いた。
「……別にいいよ。俺だって、姉さんとオリバーを天秤にかけたら、姉さんが重い。だから、俺を殺そうとしたってのも、本当に気にしてない。俺だってそうする。むしろ揺らぐな……守りたいんだろ。何に換えても守りたいものがあるやつを、俺は信用する」
「……チェレーゼのこと、何に換えても守りてえの? 本当にシスコンだな……ちょっと引くわ」
「おまえに言われたくねーよ!」
「俺は義兄妹だからセーフなの!」
シスコン二人がぎゃあぎゃあ言い合っている。私は落ち着くまで、オリバーの食べていたスナック菓子を拝借し、その様子を観戦した。




