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自撮り

「……ヴェーラの天啓は、自分を愛するものに、魂ごと乗り移る。名前は知らねえ。乗り移る時はそれなりに近くにいる必要があるが……一度乗り移っちまえば、本体……つまりチェレーゼの体から、いくら離れても問題ねえ。そんで、魔法を切るとチェレーゼの脳内に戻っちまう」

「なるほど」


 おそらくは腹心であろうオリバーにも固有魔法の名前を教えないとは、ヴェーラはかなり慎重な人格のようだ。オリバーはさっきまで泣いてたのが嘘のようにスナック菓子を食べながら、ペラペラと話している。何かが吹っ切れたらしい。


「そんで乗り移られた側はどうなるかっていうと、ヴェーラの意思次第で2パターンに分かれる」

「ふむ」

「ひとつが、ヴェーラが完全に別個な人格を保ち、会話できる状態で脳内に住み着かれるパターン。なんか窓? みたいなのがあって、ヴェーラが見ようと思えば、視界と聴覚は共有できるらしい。でも過去の記憶や心を共有ってのはできなくて、離れてる間のことは会話で伝えるしかなくてさ……不便だったなァ」


 自分の過去の記憶やら心やらを勝手に漁られたらたまったもんじゃないと思うが(私に言えたことではない)、それを不便と言い切るぐらい、オリバーはヴェーラに心酔しているのだろう。それか、めちゃくちゃなアホか。


「ヴェーラがここに住みたいと思う限り延々と住んでられるっぽくて……俺は最長で1ヶ月ぐらい一緒にいたかな」

「結構長いね」

「別に一生住んでもらっていいんだけどな、俺は」

「プロポーズすぎる」

「やっそういうんじゃ……いや、いや違わねえ。腹括るわ。男として。……真面目にソメヤちゃん、これ女の子的にどう? 俺の中で一生暮らそうって、決め台詞になる?」

「おふざけはそこまで。2パターン目は?」


 恋バナをしそうになった私たちを、ピグトニャが止める。オリバーは少し残念そうにした。恋バナはまたの機会にとっておくこととする。


「もうひとつは……完全に乗っ取られて、操り人形にされるパターン。これも過去の記憶とかは見えない。乗っ取られた側は眠りについて、その間の記憶はない。これは対象の魔力を浪費するから、使える時間に個人差がある。5分で弾切れのザコもいれば、数時間使えるやつもいるってことだな。まあでもフツー1時間とからしいぜ」

「オリバーは何時間なの?」

「知らね。これちょっと危ねえんだよ。例えば対象の残存魔力が0になるまで使ったら、ヴェーラはチェレーゼの頭に強制送還、魔力が切れた雑魚は死ぬ。貴重な戦力の俺に使うことはできないって言ってくれてさァ〜……いやー、俺愛されてるわ。ね、ソメヤちゃん、そう思うっしょ?」

「オリバー、恋愛相談は後で」


 はーい、という返事を聞きながら、私は少し考え込んでいた。オリバーと私が被験者となった、チェレーゼの天啓……<ハンティング>の耐久実験とでも呼ぶべきそれについて。もしかして、ヴェーラが私に夜な夜なハンティングを使っていたのは、私を乗っ取った場合の継続時間計算のため……?


 そこまで考えたところで、オリバーの話が再開していることに気がつき、慌てて意識を現実世界に戻す。


「どちらも、さらに別の人を乗っ取ることはできない。たとえば俺の頭にヴェーラがいたとして、俺からソメヤちゃんに行くことはできない」

「よくわかった。頭の中に住むだけ……あるいは魔力さえ続けば延々と住める、と……よかった。有効時間があったらちょっと面倒だったから。今後の作戦においては」

「俺は再度の乗っ取りはできないってとこに安心したよ……裏からでも天啓が使えるって聞いて、正直肝冷やしたからな。ヴェーラを愛している者……という条件がなかったらどうなってたか。そこに再度の乗っ取りまでできたら……ああ、よかった。できなくて」


 私たちがそれぞれに安堵していると、オリバーはそれを複雑そうに眺めた。


「……続けるけど。相手を完全に乗っ取った場合、呪文を知ってさえいれば天啓が使えるんだけど……これを、本人は『チェレーゼと人格交代してるときと同じ』って言ってた。多分、天啓はほとんどが肉体に由来するんだ。その肉体の支配権を持つ以上、ヴェーラにも使える。俺たちの仲間に幽体離脱の天啓を持ってる奴がいるんだけど……ヴェーラが使ってみたら、ちゃんと幽体離脱できたって。元々精神体に近い自分には、あまり面白くないって言ってたけど」

「なるほどねー」

「……」


 気楽に聞いてる私に対し、ピグトニャは何やら考え込んでいる。


「オリバー。それ、ヴェーラが幽体離脱してる間、その乗っ取られてたやつはどうなってた?」

「あー、なんか普通に起きたよ。ヴェーラが幽体離脱やめた瞬間、また乗っ取られてたけど。そいつすげェアホでさ! ヴェーラ姐さんは!? って大慌てしてんの! テメェの天啓で今そこら辺ふわふわしてるっての。どこどこ……ガクンッ! で、ヴェーラが帰ってきて……めちゃくちゃ笑ったなあ、アレ」


 がはは、と思い出し笑いするオリバーに、ピグトニャは呆れ気味の声で、さらに質問する。


「……その仲間って、どんな奴らだったんだ? そもそも、どうやってヴェーラとおまえらは交流してた?」

「どんな奴らって……日陰にいるような奴らだよ。俺みたいなやつ。ヴェーラが知らねえ間に集めてくれて、みんなで金稼いだりヴェーラの言うこと聞いたりしてて……。いい奴らだけど、バカのザコばっかだから、ピグトニャみてえな頭良くて強えやついたらなーと思って誘ってたわけ。ついでに金貸して欲しかったし」

「え、あれ勝手にやってたのか……? 拷問までされてたのに……?」

「まー、最後には生きて帰れるってわかってたし……」

「……そこまでして……もしかして俺のこと大好きか? 悪いが、弟は流石に守備範囲外で……」

「ちっげえよバカ! あと俺じゃなくてお前が弟!」


 保釈日の意趣返しを果たしたピグトニャは、自慢げにふふんと笑う。それで実際の交流の仕方は? と話を戻すと、オリバーは思い出したように語り出した。


「交流は基本俺の頭通じて。俺がチェレーゼの近くに行って、ヴェーラを頭に入れる。そのあと、ヴェーラの第二の顔に変身して、ヴェーラの言うとおり話す。これでも天啓の条件……『ヴェーラを愛する』は成立するし、特に問題ない。ただ、ヴェーラが俺から仲間に移動するのはできないから……本人が出てくることも稀にある。幽体離脱試したときとかはそれ。でもムショいる間にアジトが無くなっちまってさぁ……ここ1年は俺ひとり。こっそり脱獄してはヴェーラと接触し、またムショに戻ってた」

「おま……そんな自由に出入りを……」


 よく違法行為をしているピグトニャも、流石にこの発言には引いている。私もピグイタンが心配になった。この国の秩序大丈夫か?


「最初の1年はうまくいかなかったけどよ、魔法制御の一部解除をもぎ取ったからな。刑務作業効率化のために、模範囚かつ優秀な魔法使いは、これ、外してもらえるんだぜ。俺のフリしたゴーレム作って一瞬外出て、またすぐ戻って……あ〜大変だった」

「もう二度と外してもらえないだろうな……」


 オリバーは、ちぇー、と言いながら、「これ」と示してみせた魔力素子制御ブレスレットでテーブルを叩き、音を立てる。まるで幼い子どものように。


「オリバー、そのヴェーラの第二の顔、見せてもらうことはできる?」

「えー、必要?」

「新しい体を作るなら……チェレーゼと同じ見た目では作れない。そのとき、全く知らない顔を作るより、使い慣れた顔の方が心情的に抵抗が少ないでしょ?」

「んーたしかに! ソメヤちゃんの言うとおり! でも俺これつけてるから無理!」

「あー、そうだった……」


 自分はアホか、と反省してると、オリバーは考え込みはじめた。何かブレスレットを無効化する手立てがあるんだろうか? あっても困る。慌てて、無理しなくても、と言おうとしたが、オリバーの方が一歩早かった。


「ん、いや待って。俺のスマホって返してもらえてる? その中にあるわ、写真」

「え、私物は全部返ってきてるけど……写真あるんだ。なんか意外かも」


 ヴェーラは慎重派なようだから、写真も避けそうだと思っていた。ピグトニャも同じ意見のようで、私たちは無言で目配せし合う。オリバーは、そんな私たちの様子も知らず、ちょっとまってて〜と言いながら、カメラロールを遡る。


「ダチとの思い出は残してえだろ? ヴェーラは嫌がってたけど、結構研究したから盛れてると思うぜ」

「多分嫌がったのは盛れてるとかの観点じゃないと思う……」


 オリバーがアホなだけだった。アホで本当に助かるなあ。

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