ひとつの家族
「俺は、今から、ヴェーラにとって、すごく嫌かもしれないことをする……。人への嫌がらせには慣れてんのに、いざこうなると……手が震えるぜ」
オリバーはぎゅっと組んだ手を震わせ、所在無げに膝へとりあえず乗せていた。そんな彼の頭にピグトニャが、四つ角の星の印をする。
「……さっきも思ったけどさ。おまえ、神官辞めて、信仰も失ったって、ヴェーラが……」
「……プライバシーも何もないな。ああ、確かに俺は信仰を失った。神は在る、そう言い切れなくなった。でも、元神官の性……職業病……やりたくなるんだよ。苦しむ者には祈りを、喜ぶ者にも祈りを」
オリバーはびしょびしょになったハンカチで目元を押さえつつ、語る。
「なんか……昔より神官っぽいわ。ハンカチくれるし」
「それも……俺と話してて泣く人っていまだにいるから……新品お得用ハンカチをまとめ買いしてんだよ。ポータルにたくさん入れてて……ウケるだろ」
「それ……チェレーゼの入れ知恵だろ……。昔はハンカチもティッシュも忘れるヤツだったじゃん」
「ついでに自分も使えるから、忘れる心配は無くなったな」
はははと二人は軽く笑ってから、しばしお互い見つめ合う。
「相談したいことがあるんだろ? 話してくれよ……ヴェーラに怒られたら、一緒に謝ろう」
「……ピグトニャが謝ったところで、なんの意味もねえけど、一緒に行くか」
彼らはさらに笑い、オリバーも四つ角の星の印を切ってみせた。そうして彼らは、目配せだけで次の動作を決定し、声を合わせて祈りはじめる。そこはさすがに大神官の息子たち、ひとつのためらいも、記憶のあやふやさもない。的確に、聖なる流れを捉える。
「聖セレンゼ、慈しみ溢れる方。神はあなたのはたらきをご存知です。あなたはあらゆる人を人として愛しておられ、罪をも慈しみます。わたしたち罪人を慈しみ、わたしたちが互いに愛し合い、ひとつの家族となれるよう、神にお取り次ぎください。かくあれかし」
ひとつの、家族……。
この祈りは、ピグイタンでは極々定番の祈りだとチェレーゼから聞いている。特に何はなくとも、祈りたいときに口ずさむものは数多く、この祈りと併せて主の祈りというものを祈るのが一般的だという。しかし、門外漢で無知な私は、定型文であるとしても、今の状況とのつながりを見出さずにいられない。
どうかふたりが、いや、チェレーゼとヴェーラを含めた4人が、各々の罪を克服し……ひとつの家族となれますように。私も何もわからないなりに祈り、そして、願うばかりではなく……感謝した。ここまで二人を繋げてくださった、何者か……それを神と呼ぶのか、運命と呼ぶのか、偶然と呼ぶのか、私の中で依然はっきりとしない何かに対して。




