兄弟
「な、なんかされた? 俺に向いてたよな?」
「う、うん。多分」
オリバーは自分に対して放たれたということがわかったらしい。つまり、固有魔法特有の手触りを知っているということだ……固有魔法の使用を控えていてよかった。
「……あっ、な、んだ、これ?」
次の瞬間には、彼は泣き出していた。ぽろぽろと。ハンカチを使うことすら忘れるほど、不意打ちを喰らったように泣いていた。私は狼狽する。これは……なんの魔法だろう?
「なんか……くる……」
「与えてやる……俺の気持ち……! 俺の思ってることそのままを……!」
「!」
ピグトニャの発言で理解した。<固有応用魔法:敗北者は幸い>……彼は単なる敗北者ではなかった……その奪われた財産はすべて、いわば、祭壇に捧げられた生贄だったのだ。彼は奪われてきたのではない……与え続けてきた。与え、与え、与え……それが自らを由来とするものであったとき、彼は天啓どおりに喜んだ……。
もしも、天国というものがあるならば……それはたしかに、あなたに相応しい!
そのコペルニクス的転回が、彼のひねくれ、頑なになり、閉ざされた心を再び開く。少しずつ、まずは……他者への愛による、悲しみという形で。
──悲しむ人々は、幸いである、その人たちは慰められる。
突如あの主の声が私の脳内に響いたが、ふたりには聞こえていないようだった。私には全く訳がわからなかったが、彼らが慰められるなら……できれば早い方がいい。
オリバーはぐずぐず泣きながら、必死に声帯を震わせている。
「テッ、テレパシーッ、か……?」
「違う……! テレパシーは翻訳の技法……、これは、翻訳前の、生の感情……! わかるか!?」
「ッうん……わかった、けど、言葉にできねえ……」
オリバーはついに大声で泣き始めた。魔法を受けた側の彼がこんなにつらそうなら……ピグトニャの心は今、どれほど痛んでいるのか。
「言葉にもしてやる……! おまえが大事で……でも姉さんはもっと大事で……そんで……ヴェーラのことは死んで欲しいぐらい憎い……でも、おまえが望むなら……助けてやりたい……だからこそやっぱり許せない……それでも……」
「頭がぐちゃぐちゃになるッ……攻撃だろこれッ……」
「うるさい……! ともかく……おまえのために、ヴェーラのことが知りたい……! ヴェーラが嫌がることをしてしまったとして……償いは後だ……! 生きていれば……いくらでもできる……生きて、いれば……!」
ピグトニャの頬にも一筋の涙が伝った瞬間、ユーシャ・リリヴェージュ、その名が、全員の胸に浮かんだ。彼には謝れない。彼には償えない。私の力で分霊をいくら呼んでも……それは、分霊でしかない。
「だから憎い憎いヴェーラまで含めて、おまえを助けさせてくれよ……! 俺は、オリバーのこと……本当に弟だと思ってんだよ……!」
美しい天啓だ、と思った。一方的に相手を盗み読むことしかできず、自分自身の気持ちを伝えるには全く役に立たない<リーダビリティ>やその派生の魔法とは違う。私の魔法は……私の物を誰かに与えるには、絶望的に向いてない。それに対して彼の天啓は、自分の"持ち物"である感情を、"贈与"している……与えることができる魔法なのだろう。献身的で、優しくて、利他的な……ピグトニャという男に、相応しい。
「……兄は……俺だって……バカ弟」
そうしてやっとオリバーは、ピグトニャと両手で握手を交わした。




