帰省
「久々の実家〜! 俺を勘当した家久しぶり!」
「勘当してはねえよ……鍵変えただけで」
「え! こんな古い鍵なのに?」
「古く見えるよう加工してるだけ。門はアンティークな感じなのに、いかにも真新しいですって鍵にしたら浮くだろ。情緒がない」
「情緒とかいる?」
鍵の情緒について話し合ってる私たちをおいて、一足先に玄関に飛び込むオリバー。その様子はなんだか嬉しそうだ。
「俺の部屋まだ残ってる!?」
「ほとんどそのままだよ。ベッドは捨てたけど……来客用の布団使え」
「ひゃっほう!」
あまりのはしゃぎっぷりに、なんだか敵とは思えなくなってきて、それがつい声に出る。
「なんであんな無邪気……?」
「まだ17だか18の頃に逮捕されてるしな……情緒がガキのままなんだろ」
「聞こえてるぞ!」
怒ってるように見せかけているが、その声に全く怒りは感じられない。そんな浮かれきったオリバーについていき、そのまま彼の部屋に入る。
「変わってねェ! ポスターもそのままじゃん! 黄ばんでるけど」
「このポスター誰?」
「有名なギタリスト。エディ・ヴァン・ヘイレンっていう」
「そうそう、ガキの頃はすっげえ憧れてさァ〜、オルガンで宗教音楽なんか弾くのやめて、バンド組もうとか言ってたよな、な。ピグトニャ」
「へー……」
懐かしいな、と言いながらピグトニャが微笑む。少し前、ゴミカスだのなんだの罵り合ってたのが嘘みたいだ。ピグトニャも音楽好きみたいだし、実は二人は馬が合うのかもしれない。
見渡してみると、まあまあ広い部屋に(ベッドがないからそう感じるだけかもしれない)、ロックバンドのポスターらしきものがいくつか、さびれたギター、埃の溜まった電子キーボード(楽器の方)、子供の頃から使ってそうな学習机、本棚、破壊された聖像、なんかがある。
本棚の中はほとんど音楽関係の雑誌やコミックで、数冊だけ魔法や天啓に関する本がある。そして床にはビリビリのぐちゃぐちゃになった本が一冊落ちていて、拾い上げると、それは聖典(現代語訳)であった。そっと、本棚に置く。
「この部屋、外から鍵かかるようにしてあるから。窓も開かないし、割るのも無理。基本おまえは自由な外出禁止な」
「勘弁してくれよ」
「ふざけんな、おまえがいなくなったら保釈金返ってこないんだよ。俺とソメヤで折半したんだぞ、マジで感謝しろ、裁判ちゃんと出ろよ」
保釈金のことは本当に感謝して欲しい。結構な大金だった。ピグトニャは折半と言ってくれているが、実際のところ4分の1ぐらいしか払ってないし、これだって、ピグトニャが全額出そうとしたところに、計画立てた責任として無理やり押し付けたもので、それでもまあまあしんどいぐらいの額だった。大会、クエスト、軍の月給など収入源はいくつかあるが、なにぶん来たばかりなので、そんなに溜まっていないのだ。
「へーへー。そんでさぁ、尋問はいつスタートすんの? 俺に何聞きたいの? てか来客用の布団まだ?」
「持ってくるから待ってろ! はぁ……あ、ソメヤに手を出そうと思うなよ。そいつ、割と強いからな」
気をつけろよ、と言い残してピグトニャは出ていった。オリバーと二人きりになる。気まずい……と思ったが、向こうから話しかけてきてくれた。気さくな子だ。
「俺実はよくわかってないんだけど、アンタって勇者候補なんだよな?」
「そうだよ」
「ピグトニャと仲良さそうだけど、彼女?」
「それは違う」
「なァんだ、あいつもシスコン卒業したのかと思ったのに……叶わぬ恋なんかしても苦しいばかりだって、兄として教えてやりたいぜ」
ピグトニャより5個も若い子が、兄として、なんて言ってるのがなんだかおかしくて、ついつい気が緩む。
「そもそも、なんで叶わぬ恋だと思うの? お前ら付き合ってんの? とか聞いてたじゃん」
「いや、今のもそれも、ベタベタしててキモいなーってぐらいの意味で……本気じゃねえって。それに、ガチモンだったとして……普通叶わねえだろ。実の姉なんだから。地球では違うの?」
いや、おっしゃるとおりだ。その感情がガチモンだとつい先日知ってしまったから、ピグトニャに肩入れしたくなってしまった。
「た、たしかに。違わない。でもさぁ、それでいうと、オリバーからヴェーラへの恋も、きょうだいだしアウトなんじゃ……」
「俺は義兄妹! 義理の妹だからセーフ! しかもヴェーラのことは妹と思ってないし……てかヴェーラのこと好きとか言ったっけ!? とにかく、ガチシスコンのピグトニャと一緒にされたくねー……」
「誰がシスコンだ」
「おかえり〜」
ピグトニャは呆れ果てた顔で布団を置き、オリバーは嬉しそうにそこへダイブする。
「こんなに柔らかい布団も久々! シャバって最高〜! 知ってる!? ブタ箱の布団って煎餅より薄いんだぜ!?」
「もともと何をして捕まったの?」
「変身魔法の詐欺利用。そのときも保釈金くれって言われて拒否した」
「結構悪質……」
「金がなかったの!」




