ジェンダーバイアス
「話戻るけど、ヴェーラが愛を求めてるとして……それをおまえが与えるのか? 言っとくけど、俺からは無理。まだ死んで欲しいと思ってる」
予想できていたことではあったが、ピグトニャのヴェーラ全力拒否の構えが面白く、苦笑する。
「そりゃそうだよね。私は……まぁ、愛するだろうけど……それが決定打になるかはわからない。もっとヴェーラの人格について、情報が欲しい……けど、ユーシャやチェレーゼからは、もう得られない」
「パパも大した情報は持ってないだろうしな……確認する必要はあるけど、内面に迫るには足りない」
頭を悩ませるピグトニャ。私は得意げな顔をし、「そ、こ、で、」とスマホを取り出した。Webブラウザの履歴を確認し、『被収容者との面会や手紙の発受等を希望される方へ』というページを見つけ、ピグトニャの眼前に突きつける。努めて明るい仕草、やって当然だという雰囲気を醸し出す。
「オリバーの面会に行こうと思う」
しかしピグトニャは、よしそうしようとは言わず、一瞬目を丸くしてから、よく見る呆れ顔に戻った。
「あのな、普通の面会は刑務官が立ち合う。機密情報のやり取りなんかできない」
「できるよ。弁護士になれば」
「……は?」
私はひっそり練習していた変身魔法で、適当な冴えないおじさんの姿になって見せた。スーツを着て、ピグイタンの弁護士バッジをつけた、そこら辺にいそうなおじさんである。
「これでいく」
「違法行為だぞ」
「ピグトニャに言われたくなさすぎる」
「知るか! おまえまで捕まったらどうする。まず、オリバーがどこにいるのかも知らないし……」
「王都中央拘置所。間違いない」
「なんでおまえが知ってんだよ」
私は1枚の手紙を見せた。溜まってる郵便物の確認に神官用宿舎へ行ったとき、ポストに入っていたものである。
「チェレーゼ宛に手紙が来てた。面会に来いって。ニュース見てないのかな? 面会を通してヴェーラと接触するつもりなのかも」
「俺には手紙くれないのかよ……にしてもアホだな、拘置所なんてほとんど立会人がいる上、魔法は禁止……あ」
そう、拘置所における面会は、一般的に、神官用宿舎地下牢のような、魔法の使えない部屋で行われる。ただし、二つの例外がある……。
「気づいた?」
「……神官と弁護士との面会中のみ……魔法含め自由……立会人もいない。本人には魔力素子拘束具が使われるけど……外部から本人へ魔法を使う分には自由」
「そう。さっきのページにも書いてあった」
ピグトニャは長いため息をついた。
「わかったよ。わかった。必要そうな書類は俺が偽装しよう。ただし、弁護士じゃなくて神官になれ。その方がやりやすい」
「いいの!?」
「これでも元神官だからな。姉さんの神官服借りて、顔だけ別人に偽装しろ。その方が効率良いし、バレにくい」
「ありがとう〜!」
「とりあえず変身解け、やりづらい……」
そうだった、と言いながら、私は冴えないおじさんをやめ、ソメヤ・イストゥールの見た目に戻る。
「お前が男に変身するのは無理。仕草が変。なんで神官じゃなくて弁護士、それもおっさんになろうと思ったんだ」
「神官はなんか、不謹慎かなって……おじさんはなんでだろう、ジェンダーバイアス?」
ピグトニャは首を傾げていた。ピグイタンには無い概念なのかもしれない。良いことだ。




