長い話
何を甘いことを、と言われるか、なるほど、と言われるか、五分五分だと思っていたが、ピグトニャの反応は後者……それもかなり、理性的だった。
「……天啓学と呼ばれる学問がある。何年に出た論文だったかな、ソラージルの研究で……強力な天啓であればあるほど、本人の願望や育ちが影響することが多い、という研究結果がある。といっても、まだ信用に足る定説とまでは言えないんだが……とにかく。例えば、強力な天啓持ちとごく普通の天啓持ちを比較すると、強力な天啓を持つ者は、良くも悪くも、天啓発現前から、性格や思想、生育歴に癖のある傾向にあった。虐待経験、犯罪被害、重い障害や病気、あるいは極端な貧困や富豪、養育者が陰謀論者……などなど。事実、マイナス方向に強力な俺も、普通に強い姉さんやオリバーも、だいぶ歪んだ生き方をしてきている。虐待や天啓差別を推進するのではと言われ、倫理的に好まれない学問だが……ヴェーラの天啓が愛に飢えた子ども故というのも、満更間違っていないかもしれない。何かで見たのか? この論文」
「……いや、単なる直感かな。私のもそんな感じするし……」
「……<リーダビリティ>が? あまりピンとこないけど……」
そこまで言ってから、はっと気がついたように、彼は取り繕う。
「あ、いや、話せって意味じゃない」
「んー……いや、気遣ってもらったとこ悪いけど、話そうかな。私、人の話聞いてばっかりで……なんかそれも、アンフェアな気がするから」
私の返事を受けたピグトニャは、ティーポットを持ち上げ、「……長い話になるか? それ」と尋ねてきた。多分、お茶の残りが少ないのだろう。
「ごめんねー」
「待ってろ。まだ姉さんがくれたお茶が……」
ピグトニャは、お茶の残りを全部自分のカップにいれてから、台所へと去ってゆく。チェレーゼがくれたお茶なんて、きっと自分だけで飲みたいだろうに。
私の過去なんて、みんなと比べたら大したことはない。面白くもなんともない。けれど、仲間になるのなら、しょうもないことでも聞いて欲しかった。
あなたが私の騎士ならば。
「待たせたな」
「ううん、ありがと」
さっきとは違う香りがする。わざわざ違うものを選んで淹れてきてくれたらしい。
「姉さんによれば、気持ちを落ち着かせる作用があるそうだ。といっても、市販品だから私が手を加えたものに比べたら云々、とか言ってたけど」
「本当にお茶好きなんだね、チェレーゼ」
「……昔からな。スラムに茶なんかないから……こっちきて初めて飲んで、泥水かと思ったら違ってさ、感激したんだってよ。パパが淹れた変な味の魔法茶……ちなみに俺は、泥水のがマシだと思った」
「もしかして、チェレーゼって味の好み変?」
「前飲んだ二日酔いに効くお茶……あれも美味しいと思ってる可能性あるからな、姉さんとパパは」
変な舌すぎる。
「それで……<リーダビリティ>とおまえの過去に、何か関係が?」
「そんなに面白い話じゃないけどね……ピグトニャみたいに悲惨でもないし」
私はそう言いながらも、思い出そうとするほどに、胸の奥が重たくなっていくのを感じる。普段は忘れている痛みが、徐々に顔を出してくる。
「私ね……人の心が読めたの」




