必要なもの
「新しい固有応用魔法は……<霊界の読者>。3回使って分かったのは……対象の記憶を元にした分霊を生み出し、霊界で対話ができる魔法ってこと。その中では<リーダビリティ>含む他の魔法は使えない。そして、能力の使用をやめるときは、分霊と話して追い出してもらう必要がある。例えば、自分が消えるのを恐れた分霊がずっと私を出そうとしなければ、その後どうなるかわからない。心を読むとまではいかないけど……対話によって、聞きたいことをなんでも聞ける、読める可能性を秘めてる。嘘をつかれる可能性もあるかも」
例の客間へ戻ってきて説明を終えると、ピグトニャは一言、「ズルいな」と言った。
「ズルい?」
「ズルい。<リーダビリティ>だけで破格の性能なのに……固有応用魔法まで二つも解除し、どちらも強力……。完成したらどうなるかと思うと、末恐ろしい」
「それもそうか」
「それに……分霊だとしても、ユーシャと話せるのは羨ましい。完璧な分霊を作るのは難しい……俺らにはできなかった」
私は苦笑した。きっと、できたってやらなかっただろうに。
「そうだよね。でも……多分、ピグトニャには向いてないよ。出てきたくなくなるかもしれないし……」
「……外に姉さんがいるから、出てくるよ。ユーシャは出してくれる」
「そうだね……出してくれるだろうね。ふたりの話を長いことさせられて……それでやっと、信用が得られたもの」
「疑り深いからな、あいつ」
出された後……それが問題だ。ピグトニャはきっと、分霊だとしても……心を痛めてしまうだろう。私が心を痛めているのと、そっくりそのまま、同じように。こういう能力を使うのは、チェレーゼの方が向いてそうだ。
『それなら……消えゆく私だけに……ひとつ、教えてください。……私は知った。オリジナルに勝った。それが慰めになります』
チェレーゼの分霊が言ったことを思い出す。今後、また何回かチェレーゼの分霊を産むことがあったとして……彼女らはみんな、同じ質問をするのだろうか。そしてその答えを慰めとして、満足して自殺するのか。
みんな生きていた。私が勝手に造り、殺した。これからもそうするしかない。手に入れてしまった力は……適切に行使せねばならない。無闇矢鱈と使うのではなく……オリジナルにあたる、肉体ある命である人々だけでも、殺さずに……守るために。
「とにかく……ヴェーラについて聞いてきたよ。チェレーゼの分霊だからヴェーラとは切り離されてるみたいで、支障なく色々と聞けた。こんな感じ」
私は、ピグトニャに運ばれている間、スマホにぽちぽち打っていたメモを見せる。俵みたいに担がれて運ばれるのにも慣れ、スマホさえ触れるようになったのだ。彼はそれをすべて読み終え、私に返した。
「……じゃあ、最初に考えていた、姉さんの手助けをして精神世界で殺すっていう手段はほぼ不可能なわけか」
「うん。チェレーゼがヴェーラを殺せない以上、外から……私たちが戦意を喪失させる他にない」
「難関だな」
「だから、ああやって声をかける必要があった。憎悪や殺意をいくら向けても、戦意の糧になるだけ……」
喋りすぎて疲れたので、お茶を飲む。霊界のお茶とちがって、香りもすれば味もある。地に足のついた感覚がある。これから私が話す言葉と比べれば、随分と。
「必要なのは……愛。あの天啓も……愛を求める幼子の叫びだと……、私はそう、受け取った」




