素直に
「チェレーゼが表に出てても、裏から固有魔法は使えるらしい。ヴェーラを思いやってるような言葉を使ったら、すぐに試してきた」
病室を出て、扉を閉めてからそう語ると、ピグトニャは不機嫌そうに感想を述べてきた。
「……ずいぶん策士だな」
「別に、誰でも思いつくことだよ」
「……前の戦いのときも、上手かったよな。あれは一瞬、自分に対して<垣根なき世界>を使っただけ……それだけなのにあいつら、まんまと反動だと信じ込んで……その後の言葉が矛盾しないのを、本心だからだと思い込んだ。矛盾しないんじゃない……させなかった」
「……安全策をとっただけで、嘘を言ったつもりはないよ。とはいえブレがあったら困るから、隠した。本当に関係ないこと……空青いなぁとかが出てきちゃう可能性もあるし」
私の回答に不満があるのか、彼の表情は変わらない。防音魔法を使いながら、私たちはしばらく話し続けたが、話せば話すほど彼のイラつきは高まってゆき、ついには頂点にまで達した。
「俺にはもう少し本心を出せ……! おまえは偽り続けるのが得意な人間じゃない!」
私は黙りこくる。別に、嘘をついてなどいない。
「せめて俺だけでも……対等な仲間だと思ってくれ。全て曝け出せとまでは言わないが、話したくないことを話し、隠したくないことを隠すのはやめろ」
「……本当に、本心なの。ヴェーラを助けたいのも、ソラージルの兵を助けたいのも……今までの行動全部。変かもしれないけど」
「そっちじゃない。おまえがお人好しなのは知ってる。それを……露悪的に、あるいは英雄的に表現するな、と言っている。俺と二人きりのときは」
「!」
私ははっとして彼の顔を見上げた。確かに、そういう意味で素直にすごしたのは……いつが最後だっただろう。いつでも私は、本心だと言いながら、ある程度かっこつけたり、あるいは極度に愚かな行為だと卑下してみたりして、ずっと、本音を言いながらも、本心を隠し続けてはいなかったか。人の気持ちは、言葉だけで構成されてはいない。喋り方、態度、タイミング、すべてに現れている。それを偽り続けてはいなかったか。例えば……コロネに、ガネットに、それがいつしか……チェレーゼや、ピグトニャ、そして……私自身にまで。
自分の気持ちに正直に生きてる、そんなつもりだったのに。
「勇者に祀りあげて利用しようとしてる立場の俺らが言うことじゃないけど、孤高な生き方は、心を壊す……。俺も普段やってるからわかる。素を曝け出せる人間が必要だ。それには俺がなろう。……俺ではダメだというなら、仕方ないけれど」
「……」
「来たばかりの頃のおまえはもっと……素直だった。今の状態は、成長とも言える。でも……常にそのモードでいる必要はない。というか、それじゃダメだ。切り替えろ。しなやかさのない金属は、どれだけ硬くても、簡単に折れる」
「……そのとおりだね」
私は柄にもなくセンチメンタルな気持ちになり、つい彼の手を持ち上げ、握った。彼はまったく抵抗しない。純粋な質量だけが、私の両手にかかっている。
「ねえ、あなたも……私の勇者に、なってくれる?」
ピグトニャは苦笑した。
「俺は騎士だって言ったろ……勇者は二人もいらない。でも……」
ふたりの目が、しっくりと合う。
「誓うよ。俺だけはおまえに、傅かないと」




