兄さん
「……なんだよ、これ……」
ピグトニャはその手紙を、繰り返し繰り返し何度も読んだ。ユーシャの顔を見て、手紙を見て、またユーシャを見た。
「殺した……俺が……殺して……手紙を、読んだ……」
「違う」
「違わない」
「違う」
「違わない!」
声を荒げられても、私は続ける。違う、違う、と。実際は、違わない、そうやって自分を責める彼の気持ちだってわかる。けれど……だからなんなんだ。あなたが殺したとして、だからなんなんだ。ユーシャはそんなこと、気にしてもいないだろう。それが勇者、それが兄ではないのか。それを繰り返しているうちにピグトニャはなんとか落ち着いて、ふらふらとユーシャのそばに寄った。
「……笑えるかよ……兄さん」
それ以上は、何も言わなかった。棺桶の中のような沈黙が、私たちを支配した。ピグトニャはピグトニャの世界へ閉じこもり、その中でユーシャと対話していた。数枚の便箋を通じ、彼の内宇宙の中で。
しばらく彼は戻らないだろう。それならば私はその間、やるべきことをしなければ。一緒に読んだ手紙の内容……その中にひとつ、気になることがある。
──けれど、時々……まるで人が変わったみたいに、僕を愛おしげに見るチェレーゼがいる。それは例えば、真夜中に、見張り番を交代するときなんかに。
これはヴェーラだ……間違いない。チェレーゼは、私の見る限り、おそらく……ユーシャのことを、恋愛対象にしていない。
チェレーゼが救急隊に運ばれて行ったとき、私は彼女に<リーダビリティ>を使った。主にヴェーラの情報を得るためだったとはいえ、ユーシャへの恋愛感情があったなら……何か、手触りがあるはずだ。私の直感が否定している。まだ短い付き合いだけど、固有魔法だけじゃなくて、一緒にいたときの記憶全てが……チェレーゼはユーシャに恋愛感情を向けていないと、そう告げている。それも、今だけでなく、生まれてからずっと。
ずっと昔から、ヴェーラは出てきていた。それは夜の見張りの交代時みたいに、ついうたた寝した瞬間であったり、他のタイミングもあったかもしれない。そしておそらく……ピグトニャから聞いた、ユーシャを愛しているという返事のときも、出てきていた。そのために愛する人が倒れ、彼女は今、何を想っているのか。
チェレーゼ宛の手紙をポータルから取り出し、封を開ける。中に何か、ヴェーラらしき行動の影がないかと思ったけれど……単なるラブレターだ。あまりヒントにはならない。しかし、チェレーゼやヴェーラの感情を強く刺激するのは良くない。これはまだ手放さず、預かっておくべきだ。
こんな状況でやることではないかもしれない。けれど私はまた、彼の内心を覗きに行く。我に見せよ……あなたの知っている、チェレーゼを。その裏にいる、ヴェーラのことを。あなたの記憶を。冒険時代を。チェレーゼが楽しかったと回想していた……そのときを。
あなたと話したい……ユーシャ・リリヴェージュ、あるいは、ユーシャ・クルエラよ。私は全身全霊を込め、彼に注目し、集中する──。
──<固有応用魔法:霊界の読者>を解放しました。




