最期の手紙
ピグトニャへ
これは、冒険や事故、暗殺などで、死んでしまったときのために記したものです。他に、お父様とお母様宛のものと、チェレーゼ宛のものがあります。他に一緒に入っていたものは、好きにしてください。お金になるものは、何もないけれど。
来週には、陛下の御前で例の儀式があります。命の危険なんか、しばらくないだろうけれど……なんとなく書いています。節目だからかな。これもまた、今までの手紙と同じように、読まれずに捨てられることになるだろうね。だから自由に書くことができて……日記のようになってしまう。
節目だから、じゃないか。不安だからだ。もし僕が……自分の気持ちを伝えられずに、君たちの元を去ることになったら……それが怖いから書いている。いつも、ピグトニャ宛の手紙を一番最初に書いています。一番素直になれるというか、多少かっこ悪くてもいいかと思えるから。その次はお父様とお母様に書いて、最後にチェレーゼ。チェレーゼの前では、かっこつけたいんだと……手も脳もこなれて、一番綺麗な字と内容を書けるときに書きたいんだと思います。特に、今回は。
チェレーゼに、結婚を申し込みたいと思っています。チェレーゼ宛の手紙でも書くつもりではあるけれど……もし、僕が本当に死んじゃって、何故かこの手紙しか残らなくって、そんな状況になったら、ピグトニャ、どうか僕の気持ちを、チェレーゼに伝えてください。
先の冒険の中で、ピグトニャとチェレーゼのことを、やっと家族だと思えました。チェレーゼと結婚して、君を弟にできたら、どれだけ嬉しいだろう。でも、あまり自信はありません。僕は怖い……失敗することが怖い。けれど、気持ちに気づいてしまった以上、押さえ込むことはできない。
本当は、家族になりたいなら、子どものとき、一緒にファーザー・エイリムの養子になろうと言われたとき……君たちを信じたらよかった。僕は君たちを好いていたけれど、信じきってはいなかった。なのに今更家族に……しかも、チェレーゼと結婚したいだなんて、虫のいい話だとはわかってる。君だって、正直気まずいだろう。だからこれは、僕の我儘だ。きっと上手くいきはしない。
友情を壊すようで、申し訳ないとは思っている。けれど、時々……まるで人が変わったみたいに、僕を愛おしげに見るチェレーゼがいる。それは例えば、真夜中に、見張り番を交代するときなんかに。僕はそこに賭けてみたくなった。
どんどん熱くなってきて、なんか文体も変わって……いつもそうなる。筆が乗ってくるとね。恥ずかしくなってきたな。この手紙が届かないことを願うよ。けれど、届いたときのために、君のことも書く。長いことチェレーゼの話をしてしまった。ごめんね。
勇敢な戦士であり、敬虔な神官であるピグトニャ。君の勇気と勘の鋭さ、そしてなにより優しさに、僕はいつも助けられていた。僕をスラムの野良犬から貴族のお坊ちゃんにしただけでなく、勇者にまでしたのは、君だ。それは技術だけじゃない。心の話だ。君がいたから、僕は戦えた。これは毎回書いている。書くたびに、こんな届かない手紙じゃなくて直接、いつか、この口で言おうって、そう思うのだけれど、いまだ、声に出せない。
僕らの中で一番強いのは、間違いなくチェレーゼだろう。いつも後ろに控えているから気づかれないだけで、彼女がいなければ、僕は魔法を使うこともできず、君は何を奪われるかもわからない。けれど、最もやさしい人は君だった。最も慈愛に満ちていて、いつでも僕らの道標だった。僕らは虚無に満ちていて、何もやりたいことがない。そこに火をつけるのはいつも、君の哲学、理想論、美しい言葉の数々だ。まだ青い部分もあるけれど。
もし僕が死んだり……チェレーゼに嫌われたりして、君たちの元からいなくなってしまっても。どうか君だけは成し遂げてくれ。僕たちの目標、理想、夢を。そうだ、チェレーゼに振られてしまって、家族になれなかったときは……この手紙を君だけに渡して、僕はこの地を去ることにしよう。
ピグトニャ、この手紙の中でだけ、君を弟と呼ばせてほしい。勿論、本当の弟になれば……いくらでもそう呼べるけれど、今の段階ではわからないから。
君は生まれてからずっと、ずっと酷い目にあってきた。どうして君は、あんな掃溜めで、あんなに優しくいられたのか……考えたってまるでわからない。それは何か天性のもの、神の恵みだと僕は思う。そんな君に、僕の顛末を見届けてほしい。
親愛なる僕の弟、ピグトニャ。もっとはやく、弟と呼べばよかった。本当は、もっと昔から、いつでも……そう呼んでいいと知っていた。でも、もう、僕は、チェレーゼを愛してしまったんだ。だからこうするしかない。この口で、弟と、そう呼べることを祈っている。怖いんだ。本当に……魔王戦よりずっと怖い。人生賭けた大勝負だ。これを読んでるってことは……僕は死ぬか負けたかということだから、情けない男だと笑ってほしい。いつもどおり揶揄ってくれたら、それがせめてもの慰めになる。弟よ、愛しい弟よ、ピグトニャ・イグノジー、さようなら。渡さずに済むことを祈って。
ユーシャ・リリヴェージュ、あるいは、ユーシャ・クルエラ 君の情けない兄より




