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顔合わせ

「みんな、久しぶり! そんな久々でもないか。多国籍隊の隊長としてあなたたちの面倒を見ることになった……ソメヤ・イストゥール中尉です。よろしく」

「はい!」

「うお……めちゃくちゃ規律取れてる。流石だね。急に中尉になった私のために、副隊長としてガネット・ザクロ少尉がつきます。彼女は階級こそ少尉ですが、元ピグイタン軍大佐です。敬意を払うように」

「はい!」


 研修室A。文字どおり研修のための部屋を借り、私たち多国籍軍は顔合わせを行なった。37名がアザゼル小隊……先日戦闘した部隊から参入し、そこにコロネ、ガネット、ガネットの選んだ5名の信頼がおける人間、そして私を加えた、のべ45名が多国籍隊のメンバーだ。


「自己紹介カードの提出もありがとう〜。ソラージルって動画サイトとかSNS全部自前なんだね。今はほとんどソラージルからの人たちだけど……あんまり同郷で固まらず、他の隊とも交流の機会を持てたらなと思っています。みんなも協力してほしいな」

「はい!」

「そこで、元々ピグイタン支部にいた人を班長として、5つの班に分けます。私とガネットは抜いて……大体ひとつの班につき8から9人ぐらいかな? まずはそこで仲良くなってね」

「はい!」


 そして、班ごとに自己紹介を行なってもらう。顔合わせの進め方はガネットと相談して決めたが、ほとんど私流である。なんか牧歌的ですね……というガネットに『JTC式だよ』と返したら、『じぇい、てぃ、しー……特殊部隊か何かですか?』と言われた。確かに略すとなんかかっこいいが、その実はJapanese Traditional Company……ただの古臭い日本企業を指すスラングである。


 レクリエーションの様子を眺めていると、みんな班長に対し、びくびくと怯えている。数日前まで敵だった人間なのだ。当然そうなるだろう。班長は人当たりの良さを基準として選んでもらったので、無言の班こそないものの、まだまだ警戒心が途切れていない。そんな中……ひとつだけそれなりに盛り上がっている班があった。コロネのいる班である。


「ソラージルって……プロパガンダ音楽がかっこいいわよね。『我らは閣下しか知らない』とか」

「コロネ二等兵、そんな趣味が……」

「そうなんです、リズ軍曹。サブカル趣味の若者には多いんですよ」

「それは……倫理的にいいのか……?」


 さすがソラージルの工作員……と思ったが、プロパガンダ音楽好きなのは本当にただの趣味な気もする。リズ軍曹はコロネの素性を知らないから、当然困惑している。面白そうなので、こっそりその班に注目して、耳をすませてみる。


「実はソラージルでも、こっそりピグイタンとか、他国の音楽聴いてる人いますよ。俺もそうで……バレたらヤバいんですけど」

「どうヤバいんだ?」

「そりゃもう、強制労働ですよ。あぁ……正直今も怖い……」


 若い男の子の発言を皮切りに、他の兵たちも喋り出す。


「私も怖い……アザゼル様を裏切ってしまった……」

「誰かが捕まえに来るんじゃないかって悪夢を見ます……」

「いやでもさぁ、あのまま帰っても死刑だったんだし……数日間生き延びれただけ御の字……御の字ですよ、こんな……雑談もできて、まるで、普通の仲間みたいに……よくしてもらえて……うぅっ」


 そうしてついに、泣き出す者が現れた。みんなつられて泣き出してしまう。大声こそ出さないが、喉を鳴らす音が他の班にも響いたのか、研修室はしんと静まった。


「ありがとうございますっ……もし、今強制送還されても……特攻に使われても……この数日間だけで、自分は悔いないですっ……」

「私もっ……」

「ちょっと君たち、落ち着きなさい。ソラージルには返さないし、特攻もさせない。君たちは普通の兵になるんだよ。普通の……普通の、ピグイタン支部の兵に」


 リズ軍曹がおさめようとするが、事態はなかなか鎮静しない。ついには他の班にも伝播し、ほとんどの元ソラージル兵たちが泣き出す始末になってしまった。


 これがソラージル帝国……独裁的テロ国家。


「静粛に!」


 ガネットの声が響き渡り、泣いていた兵たちははっと背筋を伸ばす。ひとりの例外もなく、必死に嗚咽を堪えている。その様子さえ痛ましい。


「……つらかったな。ピグイタンでは、君たちの命も心も、駒にはしない。君たちの命を救った、ソメヤ中尉のことだけでも……信じて欲しい」


 みんなの目がこちらを向く。私が何を言おうか悩んでいるうちに、誰かの声が響いた。


「発言許可願います!」


 ガネットがこちらをちらりと見る。そうだ、隊長は私なのだ。


「許可します。えーと」

「ハリス二等兵です。先日の戦闘では……アザゼル隊副隊長を務めておりました。当時の階級は伍長であります。すみません……今だけは、ソラージル支部軍アザゼル隊副隊長、ハリス伍長として話しても……よろしいでしょうか」

「どうぞ」


 ハリス二等兵……いや、ハリス伍長は丁寧に礼を言い、語り始めた。


「我々ソラージル支部軍は……本来、同じ国際魔法連合軍の仲間として協力体制をとるべきであるピグイタン支部の皆様に対し、明確に攻撃を仕掛けました。お分かりでしょうが、ピグトニャ・イグノジーの捕獲……それが今回の目的でした」

「……」

「我々はあなた方に、明確に刃を向けた。ほぼ形骸化しているとはいえ、国際法違反でもあります。故に、どのように扱われる覚悟もできていました。あの熱狂が冷め、輸送されている間……誰もが、甘言に釣られた結果処刑される……あるいは、使い捨ての特攻兵にされる……そんな結末を思い浮かべました。なのに、冷たい牢屋ではなく空調の効いた部屋で、最後通牒ではなく自己紹介カードを渡された……あのときの困惑は、きっと一生忘れません」

「そんなに変かな……JTCスタイル……」

「変です」

「変ですね」

「変だと思います」


 ガネットをはじめとする各班長からツッコミが入る。そもそも自己紹介カードは(私の好みに合わせた)ピグトニャの案だし、私は変だと思わなかった。変だったらしい。ハリスは笑った。


「変ですよ……まるで、普通の人間になれたみたいだった。感動しました。みんな程度の差はあれ、同じ気持ちです。やることがなかったのもありますが……全員が、長く書きすぎてしまいました。人間としての我々のことを……知って欲しい、その欲求が止まらなかった」

「……」

「ソラージルでは、国民は駒です。兵士ともなれば、尚更です。今回我々は、アザゼル様……アザゼルの指示のもと、地面をひっくり返す大魔法を使用しましたが……地盤の状態によっては、ピグイタン兵も民間人も巻き込んで地面が陥没し、死んでしまう可能性があることぐらい、みんな認識していました。その時は、空に浮かんでいるアザゼルだけが助かるのです。それでもよかった。それが当たり前のことでした」

「……」

「ソメヤ中尉」


 ハリスはゆっくり歩み寄ってくる。ガネットが私の前に立ち、手を伸ばして制止する。彼は素直にそこで立ち止まり、片膝をついた。


「我々ソラージル支部軍から離脱した37名を代表し、あなたに忠誠を誓うことをここに宣言します。これは私だけの意思ではない。今日までに話し合った……皆の総意です。我々の命を救うだけでなく……我々を人間として扱ってくださり、ありがとうございます」


 すると、彼の背後で座っている残りの36名が、全員起立し、大きな声をあげ、頭を下げた。


「ありがとうございます!」


 ガネットの警戒の手が緩み、腕が落ちる。


「私からも、ありがとう。私を信じてくれて」


 私はガネットの横をすり抜け、ハリスの前に立った。


「ハリス……あなたさえ良ければ、私と主従の誓いを交わさない?」

「……よろしいのですか」

「ソメヤ中尉!」


 ガネットが叫ぶ。


「そんな軽々に結ぶものでは……!」

「軽々にじゃないよ。私は本気。ハリス、今の言葉、本当なら……この場の37名を代表して、唯一の神の前で誓って」

「了解しました……我が君、勇者ソメヤ様」

「ガネット。立会人頼める? ピグトニャ……さん、に聞いたよ。神殿に籍があって、洗礼と堅信の儀を済ませた人なら誰でもいいんでしょ? ガネットは熱心な信徒だって」


 どうしても"ピグトニャ様"とは呼べなかった。あまりに違和感が大きすぎる。


「そうですが……。はぁ……わかりました。まったく、変わったお方です」


 ガネットは呆れ気味に、私たちの横に立つ。私たちは互いに、忠義と愛を示し合い、ガネットはそれを取り仕切った。


「汝らに祝福があらんことを」


 儀式が終わった瞬間、一拍置いて、誰からともなく拍手が起こった。私はコロネの方を見た……コロネだけは、拍手していなかった。パイプ椅子に座り、手を膝の上に重ねて、こちらを見ていた。冷たい目で……。

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