風呂敷
「多すぎるッ……考えることがッ……!」
「ど、どうされました……」
「いや、こっちの話……」
劇的なシーンの後には、必ず後始末がついて回る。私は一部の人に勇者と呼ばれ、多国籍隊が結成され、ピグトニャたちの真の夢を聞いた。そしてチェレーゼは相変わらず病院におり、ハムストリの箱とやらのことも一旦先送りにしてある。エイリムとも一度話しておきたい。
「広がりすぎッ……風呂敷ッ……!」
物語ではないのだから、そう自分に都合良くはいかない。わかっているけれど、こんなにできるか! と叫びたくなるほど多種多様な仕事をさせられていた会社員時代を思い出す。しかも、仕事なんかよりよほど重い。命だの国だの星だのがかかっている。
「あの……外に出ていた方が良いでしょうか」
「いや! むしろいて! あ、全然、好きにしていいけど……」
「私はいいのですが……お風呂の時間が迫ってますよ」
「あー!」
そして襲いかかる日常、規律。寮でのお風呂は大浴場で済ませる必要があり、通常8時までには入らないといけない。以降の時間帯は、日本円で15分150円ぐらいのお金がかかる上に水圧の弱いシャワーを使うか、門限を過ぎないうちに近くのスーパー銭湯的な施設に行くしかない。スーパー銭湯は贅沢である。こんな雑に消費していい選択肢ではない。
「行ってくる!」
「行ってらっしゃいませ」
お風呂は案外いい手かもしれない、良いアイデアが浮かぶ場所は常にお風呂だと言うし。この時間なら逆に空いてきている。湯船に少しは浸かれるはず。走って向かっていると、角から出てきた人にぶつかりそうになった。
「うわっ、すみません!」
「いえ……あれ。ソメヤ中尉ではありませんか」
「あれ……コロネ!?」
コロネは通勤組……寮に入らず、自宅から通っていたはずだ。どうしてここに?
「友達の部屋に遊びに来た?」
「そんなわけないでしょう……首輪ですよ。入寮させられたんです。他の多国籍隊メンバーと一緒に。今日から」
「あ、そうなんだ! よろしくね! もしかして今からお風呂? お風呂はあっちだよ」
「……助かりました。タイミングを逃して……どこだかわからなくて」
あまりにもよそよそしい様子に、なんだか気まずくておどおどしてしまう。
「あのさ、コロネ……なんか怒ってる?」
「はい? 怒ってるとか怒ってないとかの状況にはないと思いますが……」
「いや、あまりになんというか……いつもよりだいぶ癖の少ない喋り方するから」
「……中尉に対して、フレンドリーに話せるわけないでしょう。私はあなたの部下なのですよ」
「それもそっか。なんか寂しい〜、時間外だからセーフとかない?」
「……」
無言のまま歩く。気まずい。すぐに脱衣所につき服を脱ぐと、じっとこちらを見つめる視線を感じた。コロネの方を見ると、自然な風に目を逸らされる。
「……なんか面白い? 私の体」
「見ていません」
「別に……こそこそ見なくてもいつでも見せてあげるよ。体に魔法陣がないかとか、私が何を考えてるのかとか。私を信用するために……気になることがあれば」
「……見ていません。見る必要などありません……私たちは仲間なのでしょう?」
「少し調子戻ってきた? まあいいや、早く行こ。時間ないし」
「……むしろ、調子が崩れます」
そうして各々シャワーを浴び、浴槽へ向かう。そこには数人の隊員が入っていて、ひとり見知った顔がいた。
「あ! ソメヤちゃん……中尉! 動画見たよ〜。訓練卒業どころか中尉になっちゃうなんて、寂しいな〜。寮も出ちゃうかと思ってた」
「まだ引っ越せとは言われてないよ。新兵がいっぱい入ったら、優先度的に追い出されるだろうけど。あ、コロネ、コロネも訓練以外ならこのぐらいフレンドリーでも別に……っていないわ」
コロネは浴槽に浸からず出て行ったのか、忽然と姿を消していた。足音ひとつたてないのはファーニャと同じ、工作員らしい仕草だ。
「二人って仲良いよね〜、コロネちゃんまで舞台訓練卒業させて」
「それは私の権限じゃないよ。でも、そうだね。私に対する、上の気遣いかも」
「多国籍隊……多国籍と言いつつ、ほとんどあのときのソラージルの人たちなんでしょ? そりゃちょっと不安だよね。誰か仲間がいないと」
「……そうだね」
コロネこそ……むしろ最も今、仲間から遠い存在だけれど、そんなことは言えるはずもない。表向き仲良くしておかないと、コロネの立場も危ぶまれる。やっぱり仲直り……というのも変だけれど、そういうのしなきゃいけないな……。
「私先上がるね。それじゃ」
「またねー」
少し広くなった浴槽で、ぼんやりとすごす。今の状況を、どこかでまとめて整理しなくちゃならない……。




