ルーザー
「ピグトニャが……?」
彼は頷く。
「それって……本当に、聞いていいの?」
「聞いてほしい。ソメヤに……次の勇者に」
私は覚悟を決めて、頷いた。自然と背筋が伸びてゆく。
「俺の天啓は……<ルーザー>。稀に生まれる……デメリットしかない天啓」
エイリムに対して激昂していたときのピグトニャを思い出す。
『ゴミみたいな天啓だけどな』
『そんなことを言うな、主には何か意図がある……』
『うるせえな! おまえだって本当はそう思ってんだろ! あの日から姉さんばっかりまともにかまいやがって、俺にはお祈りお祈りお祈り! そればっかじゃねえかよ!』
「天啓の全文を語ろう。それがきっと、一番伝わるから……」
私が頷くと、彼はゆっくり語り始めた。
<固有魔法:ルーザー>
──敗北者よ、あなたは幸いである。天の国はあなたたちのものである。奪われ、ののしられ、迫害され、身に覚えのないことであらゆる悪口を浴びせられるとき、あなたは幸いである。喜びなさい。大いに喜びなさい。いずれ、大きな報いがある。
<使用方法>
──あなたは日に一度、何かを奪われなければ生きてゆけない。人に何かを奪われなければ、代わりに主が奪う。これは継続魔法であり、あなたの意思で止めることはできない。だがしかし、然るべきときに、あなたは報いを受けるだろう。
「……奪われ続けるだけの、天啓」
「そうだ。姉さんの天啓が<ハンティング>でよかった……基本的には、姉さんに魔力をわずかに奪ってもらって対処していた。だが、それができなければ……何を奪われるかわからない。実は既に、左脚の小指を失っている。まるで最初からなかったかのように、綺麗に。新しく小指を作っても……消える。失われたものは戻らない。そういう天啓だ」
「……これのどこが、ユーシャの状態に関係するの……?」
「報いだ。俺は報いを受けた。主の愛とやらを……受けたんだ」
ピグトニャはユーシャの頬を撫でる。
「ソメヤ……俺が言葉に詰まったら、<リーダビリティ>を使ってくれ。どこまで読んでも構わない。気持ちじゃなくて、過去に起きた事実なら読めるんだろ。俺の話したい過去を言い当てて……続きを、俺の口からでしか話せない……心を、さらけ出すように、促してほしい」
「……わかった」
抵抗はあったが、彼の覚悟の前には頷く以外の動作が許されなかった。彼は大きく深呼吸する。この狭く清潔な部屋の中で、彼から吐き出された空気が循環し、私やユーシャの肺を満たしていく思いがした。彼の精神がこの場を支配してゆく。それは重く、苦しく、しかしかすかな希望も捨て切れてはいない。
「前提として……俺にとってユーシャは親友で、恩人で、勇者で……かけがえのない奴だった……それは嘘じゃない、はずなんだ」




